——駅前のゲームセンターにある喫煙所。朝の陽射しが柔らかく差し込む中、冷たい風が街路樹を揺らしている。
地面には落ち葉が舞い、冬の訪れを感じさせる空気が漂っていた。
「晴人くん、おはよー!」
甘坂るるが両手をポケットに突っ込みながら喫煙所に現れた。マフラーをぐるぐる巻きにした姿は、寒さに抗おうとしているのがありありと分かる。
「おはようございます、甘坂さん。」
「寒っ!今日めちゃくちゃ冷えるね。もう冬だよー!」
「……確かに、冷え込みが本格的になってきましたね。」
二人は並んで灰皿のそばに立ち、それぞれ煙草に火をつけた。白い息と煙が空に溶けていく。
「ねえ、晴人くんって冬は好き?」
「……好きですね。空気が澄んでいる感じがしますし、静かな雰囲気が良いです。」
「へー、意外!私はねー、寒いのは苦手だけど、冬のご飯とかこたつは好き!」
るるが軽く笑いながら言うと、霧島も微かに笑みを浮かべた。
「冬は防寒が大事ですね。」
「だよねー。私は最近、もこもこの部屋着買ったんだ!めっちゃ暖かいの!」
「……それは良いですね。」
「もこもこの部屋着ね、耳付きのフードがあって可愛いんだよ!」
「……耳付きですか。」
「そう!でもちょっと可愛すぎて、配達の受取とかで人と顔を合わせるのが恥ずかしいんだけどね。」
「……置き配にしてもらいましょう。」
るるが笑いながら言うと、霧島は淡々と答えながらも、どこか微かに楽しんでいるようだった。
「それがさ、置き配だと荷物を家の中に運ぶのが面倒くさくてさ!結局どっちも手間なんだよね。」
「……どちらにしても課題が残りますね。」
「でしょー?だから結局普通に受け取っちゃうんだよ。」
るるが肩をすくめて苦笑いすると、霧島は軽く頷いて煙草をくゆらせた。
「あとね、加湿器も新調したの!夜、部屋が乾燥すると寝られないじゃん?」
「……そこまで気にしたことはありませんが。」
霧島が淡々と答えると、るるは「晴人くん、あんまり部屋のこと気にしなさそうだよね」と微笑む。
「ええ。必要最低限の暖房で十分です。」
「もう、そんなこと言ってると風邪引くよ!」
二人は寒さに震えながらも、軽快な会話を続けていた。遠くで電車の音が聞こえ、静かな朝の空気に馴染んでいく。
「でもさ、冬ってやっぱり温かい飲み物と一緒に過ごすのが良くない?」
るるが言うと、霧島は自分の持っていたコンビニのホットコーヒーを軽く掲げた。
「確かに。温かいコーヒーを片手に、寒い中で吸う煙草は格別です。」
「わかるー!でもそれ、ちょっと大人っぽいよね。」
二人は互いに煙草をくゆらせながら、冬の楽しみについて語り合った。
「そうだ、寒い季節って言えば温泉でしょ!」
「……温泉、ですか。」
「そう!寒い時に温泉に入ると最高に気持ちいいんだよ。晴人くんも好きでしょ?」
「……嫌いではありません。」
「じゃあ決まり!今度行こうよ、温泉!」
るるが明るい声で提案すると、霧島は少しだけ首を傾げて答えた。
「……いいですね。甘坂さんが計画を立ててください。」
「よーし、じゃあ温泉計画しっかりやるから楽しみにしててね!」
二人は最後の一服を楽しむと、灰皿に火を消して立ち上がった。
冷たい風が再び二人の間を通り抜け、少しだけ手を震わせながら、るるは「寒いねー」と呟いた。
「晴人くん、次はあったかいところでゆっくり話そうね。」
「……楽しみにしています。」
——冬の朝の空気に包まれながら、二人のたわいない話は、次の約束への期待を胸に静かに続いていった。