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第44話:冬は好きですか?

 ——駅前のゲームセンターにある喫煙所。朝の陽射しが柔らかく差し込む中、冷たい風が街路樹を揺らしている。

 地面には落ち葉が舞い、冬の訪れを感じさせる空気が漂っていた。


「晴人くん、おはよー!」

 甘坂るるが両手をポケットに突っ込みながら喫煙所に現れた。マフラーをぐるぐる巻きにした姿は、寒さに抗おうとしているのがありありと分かる。


「おはようございます、甘坂さん。」

「寒っ!今日めちゃくちゃ冷えるね。もう冬だよー!」

「……確かに、冷え込みが本格的になってきましたね。」


 二人は並んで灰皿のそばに立ち、それぞれ煙草に火をつけた。白い息と煙が空に溶けていく。


「ねえ、晴人くんって冬は好き?」

「……好きですね。空気が澄んでいる感じがしますし、静かな雰囲気が良いです。」

「へー、意外!私はねー、寒いのは苦手だけど、冬のご飯とかこたつは好き!」


 るるが軽く笑いながら言うと、霧島も微かに笑みを浮かべた。

「冬は防寒が大事ですね。」

「だよねー。私は最近、もこもこの部屋着買ったんだ!めっちゃ暖かいの!」

「……それは良いですね。」

「もこもこの部屋着ね、耳付きのフードがあって可愛いんだよ!」

「……耳付きですか。」

「そう!でもちょっと可愛すぎて、配達の受取とかで人と顔を合わせるのが恥ずかしいんだけどね。」

「……置き配にしてもらいましょう。」

 るるが笑いながら言うと、霧島は淡々と答えながらも、どこか微かに楽しんでいるようだった。

「それがさ、置き配だと荷物を家の中に運ぶのが面倒くさくてさ!結局どっちも手間なんだよね。」

「……どちらにしても課題が残りますね。」

「でしょー?だから結局普通に受け取っちゃうんだよ。」

 るるが肩をすくめて苦笑いすると、霧島は軽く頷いて煙草をくゆらせた。


「あとね、加湿器も新調したの!夜、部屋が乾燥すると寝られないじゃん?」

「……そこまで気にしたことはありませんが。」

 霧島が淡々と答えると、るるは「晴人くん、あんまり部屋のこと気にしなさそうだよね」と微笑む。


「ええ。必要最低限の暖房で十分です。」

「もう、そんなこと言ってると風邪引くよ!」


 二人は寒さに震えながらも、軽快な会話を続けていた。遠くで電車の音が聞こえ、静かな朝の空気に馴染んでいく。


「でもさ、冬ってやっぱり温かい飲み物と一緒に過ごすのが良くない?」

 るるが言うと、霧島は自分の持っていたコンビニのホットコーヒーを軽く掲げた。


「確かに。温かいコーヒーを片手に、寒い中で吸う煙草は格別です。」

「わかるー!でもそれ、ちょっと大人っぽいよね。」


 二人は互いに煙草をくゆらせながら、冬の楽しみについて語り合った。


「そうだ、寒い季節って言えば温泉でしょ!」

「……温泉、ですか。」

「そう!寒い時に温泉に入ると最高に気持ちいいんだよ。晴人くんも好きでしょ?」

「……嫌いではありません。」

「じゃあ決まり!今度行こうよ、温泉!」


 るるが明るい声で提案すると、霧島は少しだけ首を傾げて答えた。

「……いいですね。甘坂さんが計画を立ててください。」

「よーし、じゃあ温泉計画しっかりやるから楽しみにしててね!」


 二人は最後の一服を楽しむと、灰皿に火を消して立ち上がった。

 冷たい風が再び二人の間を通り抜け、少しだけ手を震わせながら、るるは「寒いねー」と呟いた。


「晴人くん、次はあったかいところでゆっくり話そうね。」

「……楽しみにしています。」


 ——冬の朝の空気に包まれながら、二人のたわいない話は、次の約束への期待を胸に静かに続いていった。

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