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第43話:紅葉を見にいきませんか?

 ——秋晴れの空の下、甘坂るるから届いたラインには、元気いっぱいの絵文字とともにこう書かれていた。


「晴人くん、京都の紅葉見に行かない?」


 画面を見つめた霧島晴人は、少しだけため息をついて返信を打った。

「……人混みは苦手ですが、付き合います。」


 *


 数日後、二人は東山の有名な寺院に到着していた。庭園を彩る鮮やかな紅葉が目の前に広がり、観光客たちの笑い声やカメラのシャッター音が響いている。


「うわー、すごいね!こんなに綺麗だとは思わなかった!」

 るるが目を輝かせながらスマホを構える。


「……確かに見応えがありますね。」

 霧島も木々の色づきに目を向けた。赤や橙、黄色のグラデーションが風に揺れ、光と影が絶妙なコントラストを描いている。


「晴人くん、ここ立ってみて!写真撮るから!」

「……僕がですか。」

「いいから!ほら、こっち向いて!」


 るるに促され、霧島は少しぎこちない表情でカメラに収まる。撮った写真を確認したるるは満足げに頷いた。

「やっぱり絵になるね!この角度完璧!」


 二人は庭園を歩きながら、紅葉の美しさに感嘆の声を漏らし続けた。しかし、観光客の多さに次第に疲れが見え始める。


「晴人くん、ここも綺麗だけど、人が多すぎない?」

「……確かに。少し静かな場所を探しましょう。」


 二人は庭園を後にし、近くの神社へと足を向けた。人通りの少ない参道を歩きながら、るるがふと立ち止まる。


「ねえ、ここすごく雰囲気いいね。」

 るるの視線の先には、苔むした石段と朱色の鳥居が見える。落ち葉が風に舞い、秋特有の静けさが漂っている。


「……落ち着いていて良い場所ですね。」


 神社の境内にある茶屋で一息ついた後、二人は隣接する寺院に移動した。そこには小さな縁側があり、畳の上に座るとほのかな線香の香りが漂ってきた。


「はー、ここは本当に静かでいいね。」

 るるが座布団に腰を下ろし、周囲を眺めながら深呼吸する。


「……確かに、こういう場所は心が落ち着きます。」


 しばらくの間、二人は畳の上でぼんやりと過ごした。るるが畳に寝転び、天井を見上げながら微笑む。

「こういうゆっくりした時間、最近なかったなー。」

「……たまにはこういう時間も必要ですね。」


 ふと、るるが思い出したように言った。

「ねえ、ちょっとタバコ吸いたくなった。喫煙所探さない?」


「……いいですね。行きましょう。」


 二人は少し歩いて、寺院の敷地内に設けられた小さな喫煙所を見つけた。竹林に囲まれたその場所は、静けさと紅葉の美しさが共存している。


「こんなところで吸うタバコって、いつもと違う気がするよね。」

 るるが煙草に火をつけ、ゆっくりと煙を吐き出した。


「……確かに。紅葉を見ながらというのも、悪くないですね。」

 霧島も煙草に火をつけ、穏やかな空気の中で一息つく。


「晴人くん、付き合ってくれてありがとね。今日は本当に楽しかった!」

「……こちらこそ、いい景色を見せてもらえました。」


 煙草の先が赤く光り、煙が竹林を揺らす風に乗って消えていく。


 ——紅葉が鮮やかに舞い落ちる中、二人のたわいない話は、秋の京都に溶け込むように静かに続いていった。

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