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第42話:ハロウィンって楽しみますか?

 ——駅前のゲームセンターにある喫煙所。夜空には星が散らばり、街灯の明かりが静かに地面を照らしている。

 少し冷たい風が吹き抜け、秋の終わりを感じさせる夜だった。


「晴人くん、聞いて聞いて!」

 いつものように明るい声とともに甘坂るるが喫煙所に現れた。オレンジを基調にしたどこかハロウィンカラーのニットに黒のスカートを合わせた姿は、秋らしくもどこか楽しい雰囲気を漂わせている。


「こんばんは、甘坂さん。」

「ねえ、ハロウィンって興味ある?」

「……特に、ありませんが。」

「えー、予想通りだけど、せっかくだからコスプレとかしてみようよ!」

 るるは目を輝かせながら言った。


「コスプレ、ですか。」

 霧島は少しだけ眉を寄せた。乗り気でない様子がありありと伝わる。

「でも、街中でやるのはちょっと……だから、私の家でさ、コスプレパーティーしようよ!」

「……家で、ですか。」

「そうそう!軽い感じでいいんだから。ね、晴人くんもやってみようよ!」

 るるの勢いに押されるように、霧島は小さく頷いた。

「……分かりました。甘坂さんがそこまで言うなら。」


 *


 数日後、るるの家。部屋の中にはハロウィンらしい飾り付けが施され、机の上にはカボチャの形をしたチョコや、オレンジ色の包装紙に包まれたキャンディ、クッキーなどがぎっしりと並んでいた。

 るるは吸血鬼の花嫁をイメージした赤と黒のドレスに身を包み、頭には小さなティアラを載せていた。

「どう?似合ってる?」

「……ええ、とても似合っています。」

「やった!晴人くんの衣装も似合ってるよ、ちょっとイケてるじゃん!」

 霧島はクラシカルな吸血鬼風の衣装に身を包み、赤い裏地が覗くマントを羽織っていた。


「甘坂さん物凄く本格的ですね。」

「ふふ、結構がんばってみた!ありがと!」

 二人はお互いの仮装姿を眺めながら笑い合い、るるがスマホを取り出して写真を撮り始めた。

「はい、ポーズ!もっと吸血鬼っぽく!」

「……こんな感じでしょうか。」

 霧島が少しだけ手を広げてポーズを取ると、るるは「そうそう!」と笑いながらシャッターを切った。


「衣装選ぶとき、晴人くんすごい迷ってたよね!」

「……どれも似合わない気がして。甘坂さんが勧めてくれたから決められたんです。」

「でしょ!私のセンス、信じていいんだから!」

 二人は笑い合いながら、ハロウィン仕様のお菓子を口に運んだ。


「晴人くん、このチョコチップクッキーどう?おいしいでしょ?」

「……食感が独特ですごく美味しいです。」

「でしょでしょ!ハロウィンってお菓子が主役みたいなとこあるし、こういう楽しみ方もいいんだよ!」


 夜が深まると、るるがベランダへと誘った。

「ちょっと外で一服しよ。」

「……そうですね。」


 ベランダでは夜空に星が広がり、静かな風が頬を撫でていた。霧島が煙草に火をつけ、煙がゆっくりと夜空に消えていく。

「こういうのも悪くないですね。」

 霧島がぽつりと呟くと、るるも隣で煙草をくわえながら笑った。

「でしょ?晴人くんにもハロウィン楽しんでもらえたなら良かった。」

「……ありがとうございます。甘坂さんのおかげで、少し違った夜を過ごせました。」


 るるはベランダの手すりにもたれながら、少し空を見上げた。

「でも、来年は外に出てみるのもいいかもね。もうちょっと派手な仮装とかしてさ。」

「……僕には少しハードルが高いかもしれません。」

「そう言うと思った!」

 るるが楽しそうに笑うと、霧島も口元に微かに笑みを浮かべた。


「でも、いい思い出になったよね。」

「……ええ。こういう非日常な時間も悪くないです。」


 静かな夜風に包まれながら、二人はしばらく無言で星空を眺めていた。


 ——夜空の下、煙草の煙が秋の冷たい風に溶け込み、二人のたわいない話は、ハロウィンという小さな非日常の中でそっと記憶に刻まれていった。

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