——駅前のゲームセンターにある喫煙所。昼下がりの陽射しが柔らかく降り注ぎ、空にはいくつかの雲が浮かんでいた。
涼しい風が通り抜け、木々の葉がわずかに揺れている。
霧島晴人はいつものように灰皿のそばで煙草に火をつけた。吐き出された煙が白く揺れ、風に乗って空へ消えていく。
「晴人くん、おつかれー。」
柔らかな声とともに、甘坂るるが喫煙所に現れた。深いグリーンのロングカーディガンに落ち着いた色のワイドパンツという大人っぽい装いで、手に持ったトートバッグからは本の角が少し顔を覗かせていた。
「こんにちは、甘坂さん。」
「いい天気だね!こんな日は外でゆっくりするのが一番だよね。」
「……ええ、過ごしやすい日ですね。」
二人は並んで煙草に火をつけ、しばらく無言でそれぞれのペースで一服を楽しんだ。遠くで電車の音が聞こえ、日常の喧騒がゆるやかに流れている。
「ねえ、晴人くんってさ、学生時代どんな感じだったの?」
「……学生時代ですか。」
霧島が少し考えるように視線を煙に向けると、るるは好奇心に満ちた目で彼を見つめた。
「……実は運動部に所属していました。バドミントン部です。」
「えっ、そうなの!?それはちょっと意外かも!」
「……あまり上手くはなかったですが、練習には真面目に取り組んでいました。それと、スイミングスクールにも毎週通っていました。」
「すごい!晴人くんって、意外とアクティブだったんだね!」
るるは驚いた様子で声を上げた。
「甘坂さんはどうだったんですか?」
「私もバドミントン部だったよ!中学の時だけどね。」
「……そうなんですか。それは偶然ですね。」
「ねえねえ、今度一緒にバドミントンやらない?久々にやったら楽しいかも!」
「……いいですね。久しぶりですが、やってみましょう。」
るるは嬉しそうに笑顔を浮かべ、「じゃあまた計画立てよう!」と意気込んで言った。
霧島は目を瞬かせた後、静かに頷いた。
「……そうですね。楽しみにしています。」
「晴人くん、ちゃんと準備しておいてよね!手加減はしないから!」
「……分かりました。期待しています。」
霧島が微かに笑みを浮かべると、るるも満足げに笑顔を返した。
「甘坂さんは学生時代どんな感じだったんですか?」
「私?私はねー、めっちゃ普通だったよ!友達と遊んで、体育祭で騒いで、放課後はよくカラオケ行ってた!」
「……今の甘坂さんのイメージと変わらないですね。」
「まあね!でもね、実は高校の時は軽音部だったんだよ。」
「……楽器を?」
「楽器はできないけど、ボーカルやってたの!」
るるは少し誇らしげに胸を張った。
「軽音部の時ね、学園祭でステージに立ったんだけど、めっちゃ緊張して声が震えちゃったの!でも、みんな盛り上がってくれて、すごく楽しかったなー。」
「……甘坂さんってやっぱりすごいですよ。」
「えっ、どういう意味!?褒めてるよね?」
「……もちろんです。歌うことが好きなんですね。」
「大好き!晴人くんは楽器とかやらなかったの?」
「……僕には向いていないと思ったので、手を出したことはありません。」
「そっか。あー学生時代の晴人くんもちょっと見てみたかったな。」
「……あまり面白いものではないと思います。」
二人は煙草を吸い終え、灰皿に火を消した。再び風が吹き抜け、落ち葉が足元で軽く舞った。
「学生時代ってさ、何か特別だよね。今思うと、なんだかんだで楽しかったな。」
「……確かに、振り返ると良い思い出が多いですね。」
「また学生に戻れたら、何したい?」
「……もう少し、積極的に何かに挑戦してみたいと思います。」
「おーいいじゃん!私はね、もっと部活とかバイトとか頑張りたかったかな。あの頃、なんだかんだで流されてばかりだった気がするんだよね。」
「……そうですか。でも、その頃の経験があるから今があるんじゃないですか?」
「そっか、そうかもしれないね!」
るるは遠くを見つめながら、どこか懐かしそうに笑った。霧島もその横顔を見て、小さく微笑む。
「でも、今の方が楽しいよね。こうして晴人くんとたわいない話ができるのが、一番幸せかも。」
「……そうですね。今が一番かもしれません。」
柔らかな日差しの中、二人の会話はゆるやかに続いていく。静かな風が木々を揺らし、秋を感じさせる午後だった。
——紅葉が色づき始めた木々が、風に揺れるたびに淡い影を地面に映していた。
二人のたわいない話は、過ぎ去った学生時代の思い出と今をそっと繋ぐように、静かに続いていった。