——甘坂るるの家。夜空には星が散りばめられ、静かな街並みを柔らかな月明かりが淡く染め、遠くから虫の声が微かに響いていた。
微かに揺れるカーテン越しに、心地よい夜風が室内へと入り込んでいた。
「晴人くん、いらっしゃい!今日はしっかりおもてなしするからね!」
玄関を開けたるるは、嬉しそうな笑顔を浮かべて霧島を迎え入れた。部屋の中はシンプルながらも温かみがあり、机の上にはるる手作りの料理が並んでいた。
「こんばんは、甘坂さん。今日はお邪魔します。」
「堅いなー!もっとリラックスしていいんだよ?」
るるがくすくすと笑いながら言うと、霧島は少し照れくさそうに「そうします」と短く答えた。
二人はテーブルを囲みながら、軽い雑談を交わした。
るるの作った料理は、カレー風味のチキンソテーや季節の野菜を使ったサラダ、そしてデザートには手作りのショートケーキが添えられている。
「これ、甘坂さんが全部作ったんですか?」
「そうだよ!ホラー映画の時のお礼も兼ねて、頑張ったんだから!」
「……本当にありがとうございます。どれも美味しそうですね。」
料理を一通り楽しんだ後、るるがテーブルの端に置いてあった小さな袋を手に取った。
「じゃーん!これ、プレゼント!」
「……プレゼントですか。」
「そうだよ、前に私が言い出したプレゼント交換だよ?ちゃんと晴人くんのこと考えて、実用的で長く使えるものを選んだんだから!」
るるが袋を差し出すと、霧島は少し驚いた表情を見せながらも受け取った。
「開けてもいいですか?」
「もちろん!」
袋を開けると、中には上質なペンケースとシンプルな腕時計が入っていた。どちらもシックなデザインで、霧島の落ち着いた雰囲気にぴったりだ。
「……ありがとうございます。どちらも素敵ですね。」
「良かった!お仕事でも使えるし、腕時計ならプライベートでも役立つでしょ?」
「……ええ。どちらも大事に使わせていただきます。」
霧島が静かに感謝を述べると、るるは満足そうに微笑みながら言葉を続けた。
「変じゃなかった?ちょっと悩んだけど、晴人くんに似合うかなーって思って選んだんだよね!」
「……甘坂さんが選んだものなら、間違いないと思います。」
「えっ、それって褒めてるの?何か照れるなー!」
るるは照れ隠しに飲み物を一口飲みながら笑った。
「でも、喜んでもらえてよかった。これ、ちゃんと長く使ってね!」
「……もちろん。せっかくいただいたものですから。」
霧島がしっかりと頷くと、るるは安心したように笑顔を見せた。
「これで、またちょっとだけ晴人くんとの距離が縮まったかな?……なんて、私の勝手な思い込みかもしれないけど。」
「……それは甘坂さんの気のせいじゃないかもしれません。」
霧島はわずかに頬を染めながら、るるの顔を見た。
「僕も、甘坂さんとのこういう時間を大事に思っていますから。」
「えっ……それ、本気で言ってる?」
るるは驚きながらも嬉しそうに目を輝かせた。
「……嘘は言いません。」
霧島が静かに答えると、るるは思わず「わー、そういうのずるい!」と笑いながら、照れくさそうに肩をすくめた。
その後、二人はソファに並んで座り、るるが用意していた紅茶を飲みながらゆっくりと会話を楽しんだ。
一息ついたところで、るるが立ち上がり窓を開けた。
「ちょっと外で吸おうか。夜風も気持ちいいし。」
「……いいですね。」
霧島も立ち上がり、二人はベランダへと向かった。灰皿が置かれた小さなテーブルがあり、るるが煙草を取り出して火をつけた。
「こういう夜に吸う煙草って、なんか特別な感じするよね。」
「……確かに。静かな時間と相性が良い気がします。」
霧島も火をつけ、ゆっくりと煙を吐き出す。煙が秋の夜風に乗り、星空の下へ静かに消えていった。
ひんやりとした風が火照った頬を冷やし、二人はしばらくその静寂に身を任せた。
夜空を見上げると、星々がまるで二人の会話を聞いているかのように瞬いていた。
「こういう風に誕生日を祝ってもらうの、久しぶりですね。」
「そうなの?意外だなー。晴人くん、みんなに好かれてそうなのに。」
「……どうでしょう。それほどではないと思います。」
るるは少し考え込むように視線を巡らせた後、「でも」と微笑んだ。
「私は晴人くんといると楽しいよ。だから、また来年も期待していいかな?」
「……ええ。もしよければ。」
夜が更ける中、二人の会話は尽きることなく続いた。紅茶の香りが漂う温かな空間に、どこかほっとする静けさが満ちていた。
——夜風が揺らすカーテンの向こう、星空の下で交わされた二人のたわいない話は、夜風に溶け込むように、そっと記憶の中に灯り続けていった。