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第40話:また期待していいんですか?

 ——甘坂るるの家。夜空には星が散りばめられ、静かな街並みを柔らかな月明かりが淡く染め、遠くから虫の声が微かに響いていた。

 微かに揺れるカーテン越しに、心地よい夜風が室内へと入り込んでいた。


「晴人くん、いらっしゃい!今日はしっかりおもてなしするからね!」

 玄関を開けたるるは、嬉しそうな笑顔を浮かべて霧島を迎え入れた。部屋の中はシンプルながらも温かみがあり、机の上にはるる手作りの料理が並んでいた。

「こんばんは、甘坂さん。今日はお邪魔します。」

「堅いなー!もっとリラックスしていいんだよ?」

 るるがくすくすと笑いながら言うと、霧島は少し照れくさそうに「そうします」と短く答えた。


 二人はテーブルを囲みながら、軽い雑談を交わした。

 るるの作った料理は、カレー風味のチキンソテーや季節の野菜を使ったサラダ、そしてデザートには手作りのショートケーキが添えられている。


「これ、甘坂さんが全部作ったんですか?」

「そうだよ!ホラー映画の時のお礼も兼ねて、頑張ったんだから!」

「……本当にありがとうございます。どれも美味しそうですね。」


 料理を一通り楽しんだ後、るるがテーブルの端に置いてあった小さな袋を手に取った。

「じゃーん!これ、プレゼント!」

「……プレゼントですか。」

「そうだよ、前に私が言い出したプレゼント交換だよ?ちゃんと晴人くんのこと考えて、実用的で長く使えるものを選んだんだから!」

 るるが袋を差し出すと、霧島は少し驚いた表情を見せながらも受け取った。


「開けてもいいですか?」

「もちろん!」


 袋を開けると、中には上質なペンケースとシンプルな腕時計が入っていた。どちらもシックなデザインで、霧島の落ち着いた雰囲気にぴったりだ。

「……ありがとうございます。どちらも素敵ですね。」

「良かった!お仕事でも使えるし、腕時計ならプライベートでも役立つでしょ?」

「……ええ。どちらも大事に使わせていただきます。」

 霧島が静かに感謝を述べると、るるは満足そうに微笑みながら言葉を続けた。


「変じゃなかった?ちょっと悩んだけど、晴人くんに似合うかなーって思って選んだんだよね!」

「……甘坂さんが選んだものなら、間違いないと思います。」

「えっ、それって褒めてるの?何か照れるなー!」

 るるは照れ隠しに飲み物を一口飲みながら笑った。

「でも、喜んでもらえてよかった。これ、ちゃんと長く使ってね!」

「……もちろん。せっかくいただいたものですから。」

 霧島がしっかりと頷くと、るるは安心したように笑顔を見せた。


「これで、またちょっとだけ晴人くんとの距離が縮まったかな?……なんて、私の勝手な思い込みかもしれないけど。」

「……それは甘坂さんの気のせいじゃないかもしれません。」

 霧島はわずかに頬を染めながら、るるの顔を見た。

「僕も、甘坂さんとのこういう時間を大事に思っていますから。」

「えっ……それ、本気で言ってる?」

 るるは驚きながらも嬉しそうに目を輝かせた。

「……嘘は言いません。」

 霧島が静かに答えると、るるは思わず「わー、そういうのずるい!」と笑いながら、照れくさそうに肩をすくめた。


 その後、二人はソファに並んで座り、るるが用意していた紅茶を飲みながらゆっくりと会話を楽しんだ。


 一息ついたところで、るるが立ち上がり窓を開けた。

「ちょっと外で吸おうか。夜風も気持ちいいし。」

「……いいですね。」

 霧島も立ち上がり、二人はベランダへと向かった。灰皿が置かれた小さなテーブルがあり、るるが煙草を取り出して火をつけた。

「こういう夜に吸う煙草って、なんか特別な感じするよね。」

「……確かに。静かな時間と相性が良い気がします。」

 霧島も火をつけ、ゆっくりと煙を吐き出す。煙が秋の夜風に乗り、星空の下へ静かに消えていった。

 ひんやりとした風が火照った頬を冷やし、二人はしばらくその静寂に身を任せた。

 夜空を見上げると、星々がまるで二人の会話を聞いているかのように瞬いていた。


「こういう風に誕生日を祝ってもらうの、久しぶりですね。」

「そうなの?意外だなー。晴人くん、みんなに好かれてそうなのに。」

「……どうでしょう。それほどではないと思います。」


 るるは少し考え込むように視線を巡らせた後、「でも」と微笑んだ。

「私は晴人くんといると楽しいよ。だから、また来年も期待していいかな?」

「……ええ。もしよければ。」


 夜が更ける中、二人の会話は尽きることなく続いた。紅茶の香りが漂う温かな空間に、どこかほっとする静けさが満ちていた。


 ——夜風が揺らすカーテンの向こう、星空の下で交わされた二人のたわいない話は、夜風に溶け込むように、そっと記憶の中に灯り続けていった。

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