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第39話:仕事ってなんですか?

 ——駅前のゲームセンターにある喫煙所。午後の日差しが穏やかに差し込み、街路樹の葉が揺れるたびに薄い影が地面に揺れていた。

 通りを行き交う人々の足音が微かに響く中、霧島晴人は煙草に火をつけた。吐き出された煙がゆっくりと空気に溶けていく。


「晴人くん、こんにちは!」

 甘坂るるがいつもの明るい声で喫煙所に現れた。淡いクリーム色のトップスに、秋らしいチェック柄のスカートを合わせた姿が、柔らかな陽射しに映えている。

「こんにちは、甘坂さん。」

「今日もここはいつも通りだねー。」

「……ええ、いつも通り落ち着きます。」


 二人はいつもの位置に自然と立ち、るるがカバンから煙草を取り出して火をつけた。

 立ち昇る煙が緩やかに風に乗り、喫煙所の外へと溶け込んでいく。

「最近、少し涼しくなりましたね。」

「ほんとだよね!このくらいの気温が一番好きかも。」


「ねえ、そういえばさ、晴人くんってどんな仕事してるの?」

「……仕事ですか?」

 霧島が少し考え込むような表情を見せると、るるは「言いたくなかったらいいけど」と笑いながら言った。

「いや、別に隠しているわけではありません。今は漫画喫茶で深夜のアルバイトをしています。」

「えっ、漫画喫茶? あの、こないだ私たちが一緒に行ったとこ?」

「……そうです。思ったより居心地が良くて、気づいたら応募していました。」

「へー! あそこで働き始めたんだ!」

 るるは目を輝かせながら、まるで自分のことのように嬉しそうに声を上げた。

「どう? 楽しいの?」

「……意外と、ですね。人が少ない時間は割と自由ですし、ゲームや漫画の情報も豊富なので。」

「そっかそっか!じゃあ、晴人くんにとっては結構合ってる感じなんだね!」


 るるが頷きながら煙を吐き出すと、霧島は少しだけ笑った。

「甘坂さんはどうなんですか?」

「私?私の仕事はねー、前にも話したけど、配信とか動画の投稿がメインだよ!」

「……なるほど。配信の仕事はやはり楽しそうですね。」

「うん!好きなことを共有できるのがいいよね。でも、編集とかは地味に大変なんだよ!」

「……大変な作業もあるんですね。」

「そりゃそうだよ!まあでも、コメントとかで『楽しかった』って言われると頑張れる!」

「……それは良いですね。」


 二人は再び煙を吐きながら、それぞれの仕事について話を続けた。


「でもさ、仕事って大変なことも多いよね。」

「……それは確かにあります。」

「晴人くん、漫画喫茶のバイトで苦労したこととかある?」

「……深夜の対応は慣れるまで大変でした。それと、時間帯もあるのか酔っ払った人の対応が面倒ですね。」

「それ、めっちゃ大変そう!」

 るるが思わず笑うと、霧島は肩をすくめながらも微かに笑った。


「甘坂さんは、苦労していることはありますか?」

「うーん、やっぱり炎上しないように気をつけることかな!」

「……なるほど。それは確かに気を遣いそうですね。」

「ね、意外と気疲れするんだよ。でも、みんなが楽しんでくれるから頑張れる!」

「……それは素晴らしいですね。」


 午後の風が二人の間を静かに通り抜け、どこか土の匂いが混じった空気が肌に心地よく触れた。


「ねえ、晴人くん。仕事って、何のためにあると思う?」

「……何のために、ですか。」

 霧島は煙草を見つめながら少し考え込んだ。

「生活のため、あとは……未来を作るためでしょうか。」

「未来?」

 るるが首をかしげると、霧島は煙を静かに吐き出してから、ゆっくりと言葉を続けた。

「……今やっていることが、いつかお金以外にも別の形でも自分に返ってくる。そう思うと、仕事にも少し意味を感じられます。」

「そっか。それってなんだか素敵だね。」

 るるは嬉しそうに微笑みながら、指先で煙草を軽く弾いた。

「じゃあ、晴人くんが未来に向けて何かやってる姿、私も応援したくなっちゃうな!」

「……そういう所、甘坂さんらしいですね。ありがとうございます。」

 霧島が少しだけ笑みを浮かべると、るるも「でしょ?」と得意げに笑ってみせた。


 ——午後の柔らかな陽射しが二人を包み、時折吹く風が街路樹を揺らしていた。

 二人のたわいない話は、秋の空気に溶け込みながら、未来の一片を静かに描いていった。

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