——駅前のゲームセンターにある喫煙所。午後の日差しが穏やかに差し込み、街路樹の葉が揺れるたびに薄い影が地面に揺れていた。
通りを行き交う人々の足音が微かに響く中、霧島晴人は煙草に火をつけた。吐き出された煙がゆっくりと空気に溶けていく。
「晴人くん、こんにちは!」
甘坂るるがいつもの明るい声で喫煙所に現れた。淡いクリーム色のトップスに、秋らしいチェック柄のスカートを合わせた姿が、柔らかな陽射しに映えている。
「こんにちは、甘坂さん。」
「今日もここはいつも通りだねー。」
「……ええ、いつも通り落ち着きます。」
二人はいつもの位置に自然と立ち、るるがカバンから煙草を取り出して火をつけた。
立ち昇る煙が緩やかに風に乗り、喫煙所の外へと溶け込んでいく。
「最近、少し涼しくなりましたね。」
「ほんとだよね!このくらいの気温が一番好きかも。」
「ねえ、そういえばさ、晴人くんってどんな仕事してるの?」
「……仕事ですか?」
霧島が少し考え込むような表情を見せると、るるは「言いたくなかったらいいけど」と笑いながら言った。
「いや、別に隠しているわけではありません。今は漫画喫茶で深夜のアルバイトをしています。」
「えっ、漫画喫茶? あの、こないだ私たちが一緒に行ったとこ?」
「……そうです。思ったより居心地が良くて、気づいたら応募していました。」
「へー! あそこで働き始めたんだ!」
るるは目を輝かせながら、まるで自分のことのように嬉しそうに声を上げた。
「どう? 楽しいの?」
「……意外と、ですね。人が少ない時間は割と自由ですし、ゲームや漫画の情報も豊富なので。」
「そっかそっか!じゃあ、晴人くんにとっては結構合ってる感じなんだね!」
るるが頷きながら煙を吐き出すと、霧島は少しだけ笑った。
「甘坂さんはどうなんですか?」
「私?私の仕事はねー、前にも話したけど、配信とか動画の投稿がメインだよ!」
「……なるほど。配信の仕事はやはり楽しそうですね。」
「うん!好きなことを共有できるのがいいよね。でも、編集とかは地味に大変なんだよ!」
「……大変な作業もあるんですね。」
「そりゃそうだよ!まあでも、コメントとかで『楽しかった』って言われると頑張れる!」
「……それは良いですね。」
二人は再び煙を吐きながら、それぞれの仕事について話を続けた。
「でもさ、仕事って大変なことも多いよね。」
「……それは確かにあります。」
「晴人くん、漫画喫茶のバイトで苦労したこととかある?」
「……深夜の対応は慣れるまで大変でした。それと、時間帯もあるのか酔っ払った人の対応が面倒ですね。」
「それ、めっちゃ大変そう!」
るるが思わず笑うと、霧島は肩をすくめながらも微かに笑った。
「甘坂さんは、苦労していることはありますか?」
「うーん、やっぱり炎上しないように気をつけることかな!」
「……なるほど。それは確かに気を遣いそうですね。」
「ね、意外と気疲れするんだよ。でも、みんなが楽しんでくれるから頑張れる!」
「……それは素晴らしいですね。」
午後の風が二人の間を静かに通り抜け、どこか土の匂いが混じった空気が肌に心地よく触れた。
「ねえ、晴人くん。仕事って、何のためにあると思う?」
「……何のために、ですか。」
霧島は煙草を見つめながら少し考え込んだ。
「生活のため、あとは……未来を作るためでしょうか。」
「未来?」
るるが首をかしげると、霧島は煙を静かに吐き出してから、ゆっくりと言葉を続けた。
「……今やっていることが、いつかお金以外にも別の形でも自分に返ってくる。そう思うと、仕事にも少し意味を感じられます。」
「そっか。それってなんだか素敵だね。」
るるは嬉しそうに微笑みながら、指先で煙草を軽く弾いた。
「じゃあ、晴人くんが未来に向けて何かやってる姿、私も応援したくなっちゃうな!」
「……そういう所、甘坂さんらしいですね。ありがとうございます。」
霧島が少しだけ笑みを浮かべると、るるも「でしょ?」と得意げに笑ってみせた。
——午後の柔らかな陽射しが二人を包み、時折吹く風が街路樹を揺らしていた。
二人のたわいない話は、秋の空気に溶け込みながら、未来の一片を静かに描いていった。