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第38話:ストレス発散してますか?

 ——駅前のゲームセンターにある喫煙所。

 曇り空が広がり、陽射しの少ない昼間はどことなく静かだった。遠くで電車が通り過ぎる音が響き、少し湿った空気が漂っている。

 霧島晴人は、いつものように灰皿のそばで煙草に火をつけた。ゆっくりと吐き出した煙が白く漂い、風に乗って消えていく。


「晴人くん、おつかれー!」

 明るい声とともに、甘坂るるが喫煙所にやってきた。カジュアルなデニムジャケットにTシャツを合わせた姿が、少し涼しげな空によく映える。

「こんにちは、甘坂さん。」

「ねえねえ、晴人くんってさ、ストレス溜まったりしないの?」

「……まあ、それなりにはあります。」

「やっぱりー!で、どうやって発散してるの?」


 二人は並んで煙草に火をつけると、るるは興味津々といった表情で霧島を見つめた。


「……ゲームが多いですね。何も考えずにプレイしていると、気分が楽になります。」

「へー、さすがゲーマーだね!私はね、ヒトカラ派!」

「……ヒトカラ?」

「そう!一人カラオケだよ!誰にも気を遣わなくていいし、好きな曲を全力で歌えるの!」

 るるが得意げに説明すると、霧島は少し驚いたような表情を見せた。

「……一人でカラオケに行くんですか?」

「そうだよ!楽しいし、ストレスも全部吹っ飛ぶんだから!」

「……なるほど。それは意外でした。」

 霧島の反応に、るるは笑いながら煙を吐き出した。


「でも、晴人くんってカラオケとか行く?」

「……ほとんど行きませんね。歌うのは少し抵抗があります。」

「そっかー。でも、一回やったら楽しいかもしれないよ?」

「……そうでしょうか。」


 二人はしばらく無言で煙草を吸っていたが、るるが突然思い出したように声を上げた。

「そうだ!今度私と一緒に行こうよ!カラオケ!」

「……甘坂さんと?」

「うん!きっと楽しいって!あ、でも、全力で歌ってる私を引かないでね!」

 るるが冗談混じりに言うと、霧島は小さく笑みを浮かべた。

「……まあ、考えておきます。」

「やった!約束だよ!」


「そういえば、甘坂さんはどんな曲を歌うんですか?」

「えっ、それ気になる?うーん、アニソンとか、あとはSNSで流行ってる曲が多いかな!でも、昭和とか昔の歌もたまに歌うよ。」

「……幅広いですね。」

「でしょ?晴人くんは?もし行ったら何歌う?」

「……考えたこともないので、わかりません。」

「えー、じゃあ今度私が選んであげる!デュエット曲とかどう?」

「……それは少しハードルが高い気がします。」

 霧島が少し困ったように答えると、るるは楽しげに笑った。


「でもさ、ゲームもカラオケも、結局ストレス発散ができたり、楽しければそれでいいんだよね。」

「……それはそうですね。目的は同じですから。」

「でしょ?だから、晴人くんも一回カラオケ試してみてよ。案外ハマるかもよ?」

「……検討しておきます。」


 二人は曇り空の下で会話を続けた。湿った風が肌に触れ、煙草の煙が薄いベールのように漂っていた。


 「晴人くん、今日は一緒に話せて楽しかった!」

「……それは良かったです。」

「次はカラオケで大盛り上がりしよっか!」

「……その時はよろしくお願いします。」


 ——曇り空の下、二人のたわいない会話は、ゆるやかな風に乗り、次の約束を静かに刻んでいった。

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