——駅前のゲームセンターにある喫煙所。
曇り空が広がり、陽射しの少ない昼間はどことなく静かだった。遠くで電車が通り過ぎる音が響き、少し湿った空気が漂っている。
霧島晴人は、いつものように灰皿のそばで煙草に火をつけた。ゆっくりと吐き出した煙が白く漂い、風に乗って消えていく。
「晴人くん、おつかれー!」
明るい声とともに、甘坂るるが喫煙所にやってきた。カジュアルなデニムジャケットにTシャツを合わせた姿が、少し涼しげな空によく映える。
「こんにちは、甘坂さん。」
「ねえねえ、晴人くんってさ、ストレス溜まったりしないの?」
「……まあ、それなりにはあります。」
「やっぱりー!で、どうやって発散してるの?」
二人は並んで煙草に火をつけると、るるは興味津々といった表情で霧島を見つめた。
「……ゲームが多いですね。何も考えずにプレイしていると、気分が楽になります。」
「へー、さすがゲーマーだね!私はね、ヒトカラ派!」
「……ヒトカラ?」
「そう!一人カラオケだよ!誰にも気を遣わなくていいし、好きな曲を全力で歌えるの!」
るるが得意げに説明すると、霧島は少し驚いたような表情を見せた。
「……一人でカラオケに行くんですか?」
「そうだよ!楽しいし、ストレスも全部吹っ飛ぶんだから!」
「……なるほど。それは意外でした。」
霧島の反応に、るるは笑いながら煙を吐き出した。
「でも、晴人くんってカラオケとか行く?」
「……ほとんど行きませんね。歌うのは少し抵抗があります。」
「そっかー。でも、一回やったら楽しいかもしれないよ?」
「……そうでしょうか。」
二人はしばらく無言で煙草を吸っていたが、るるが突然思い出したように声を上げた。
「そうだ!今度私と一緒に行こうよ!カラオケ!」
「……甘坂さんと?」
「うん!きっと楽しいって!あ、でも、全力で歌ってる私を引かないでね!」
るるが冗談混じりに言うと、霧島は小さく笑みを浮かべた。
「……まあ、考えておきます。」
「やった!約束だよ!」
「そういえば、甘坂さんはどんな曲を歌うんですか?」
「えっ、それ気になる?うーん、アニソンとか、あとはSNSで流行ってる曲が多いかな!でも、昭和とか昔の歌もたまに歌うよ。」
「……幅広いですね。」
「でしょ?晴人くんは?もし行ったら何歌う?」
「……考えたこともないので、わかりません。」
「えー、じゃあ今度私が選んであげる!デュエット曲とかどう?」
「……それは少しハードルが高い気がします。」
霧島が少し困ったように答えると、るるは楽しげに笑った。
「でもさ、ゲームもカラオケも、結局ストレス発散ができたり、楽しければそれでいいんだよね。」
「……それはそうですね。目的は同じですから。」
「でしょ?だから、晴人くんも一回カラオケ試してみてよ。案外ハマるかもよ?」
「……検討しておきます。」
二人は曇り空の下で会話を続けた。湿った風が肌に触れ、煙草の煙が薄いベールのように漂っていた。
「晴人くん、今日は一緒に話せて楽しかった!」
「……それは良かったです。」
「次はカラオケで大盛り上がりしよっか!」
「……その時はよろしくお願いします。」
——曇り空の下、二人のたわいない会話は、ゆるやかな風に乗り、次の約束を静かに刻んでいった。