——駅前のゲームセンターにある喫煙所。
朝の陽射しが柔らかく降り注ぎ、空には筋雲がゆるやかに伸びている。
秋特有の透明な空気が漂い、遠くで電車が通り過ぎる音が微かに響いていた。
霧島晴人は灰皿のそばに立ち、煙草に火をつけた。
吐き出した煙が風に乗り、ゆっくりと空に溶けていく。その視線の先には、朝露を纏った街路樹の葉が陽射しを受けて輝いていた。
「晴人くん、おはよー!」
軽快な声とともに、甘坂るるが喫煙所に姿を現す。薄手のカーディガンにシンプルなスカートを合わせた装いは、どこか秋らしい雰囲気を漂わせている。
「おはようございます、甘坂さん。」
「今日すごく気持ちいい朝だね!風が気持ちいい!」
「……そうですね。涼しくて過ごしやすいです。」
二人はいつものように並んで煙草をくゆらせている。
るるは一息ついてから、楽しげに笑みを浮かべる。
「でもさ、夏が終わっちゃうの、ちょっと寂しくない?」
「……そうですね。けれど、秋には秋の良さがあります。」
「おっ、晴人くんが秋の魅力語るの珍しい!どんなとこ?」
「例えば……落ち着いた雰囲気とか、涼しい気候ですかね。」
るるは「なるほどねー」と頷きながら、目を輝かせて言った。
「私はやっぱり、秋は食欲の秋かな!焼き芋とか栗とか、スイーツとか!」
「甘坂さんらしいですね。」
「えへへ、でしょ?あ、晴人くんは焼き芋とか好き?」
「……たまに食べますね、嫌いではありません。」
「そっか、じゃあ今度おいしい焼き芋屋さん見つけたら教えるね!」
二人は秋の味覚についての話を交わしながら、喫煙所の静かな空気を楽しんだ。
ふと、るるが視線を上げて口を開いた。
「ねえ、秋って何か新しいこと始めるのにぴったりじゃない?晴人くんは何か予定ある?」
「……特にはありませんね。いつも通りの生活です。」
「そっかー。そういえば、読書の秋っていうけどさ、晴人くんは本とか読まないの?」
「少しは読みますが、最近はあまり時間を取れていません。」
「じゃあ、おすすめの本とかあったら教えるね!秋の夜長にぴったりのやつ。」
霧島は静かに頷きながら、煙草を指先で軽く弾いた。
「確かに。季節の移り変わりには独特の趣があります。」
「そうそう!だから、季節が変わるたびにいろんな楽しみを見つけたいんだよね!次は秋のイベントとか考えないと!」
「イベントですか?」
「うん!例えば、お月見で団子食べながら写真撮るとか、ハロウィンでプチ仮装するとか!」
「……好きですね。」
「せっかくのイベントだもん、楽しまなきゃ損だよ!」
るるが楽しそうに笑う姿に、霧島も思わず小さく微笑んだ。
朝の柔らかな陽射しが二人を包み、木々を揺らす風が秋の気配を運んでくる。
二人の会話は、変わりゆく季節の中で、静かに続いていった。
——秋の香りを纏う朝の空気に乗せて、二人のたわいない話は新しい季節の始まりを描いていった。