——夏の夜、澄んだ空には星がちらほらと輝き、町の灯りがほんのりと空気を温めていた。
霧島晴人は、駅前で待ち合わせた甘坂るるの姿を見つけ、小さく手を挙げた。
「こんばんは、甘坂さん。」
「晴人くん、こんばんは!お待たせ!」
るるは前に一緒に選んだ白地に赤い花柄が映える浴衣を身にまとい、髪をサイドでまとめたスタイルで現れた。
浴衣の帯には小さな巾着袋を提げ、足元の下駄が軽やかな音を立てている。
「似合っていますね。」
「え、ほんと?ありがとう!晴人くんの甚平も似合ってる!ちゃんと覚えてて着てくれたんだね!」
「……せっかく甘坂さんが選んでくれたので。」
少し照れくさそうにする霧島を見て、るるはくすっと笑った。
駅前の喧騒の中、二人は祭り会場へと向かって歩き出す。道沿いには屋台がずらりと並び、明るい提灯の光が通りを彩っていた。
「すごい人だね!これぞお祭りって感じ!」
「ええ。賑やかですね。」
るるは周りをキョロキョロと見回しながら、目を輝かせていた。
「まず何食べる?お祭りといえば、やっぱりりんご飴でしょ!」
「りんご飴ですか……。あれ、高いですよね。」
「えー、雰囲気込みの値段だよ!楽しんだもの勝ちでしょ?」
るるは笑いながら屋台のおじさんに声をかけ、大きなりんご飴を手に取った。
「ほら、晴人くんも一口食べてみる?」
「いえ、甘坂さんが楽しんでください。」
霧島が少し遠慮がちに答えると、るるは満足げにりんご飴をかじりながら笑った。
二人は焼きそばやたこ焼きを購入し、祭りならではの味を楽しむ。
「この焼きそば、ソースが濃くておいしい!晴人くん、たこ焼きの方どう?」
「……もの凄く熱いです、味も良いですよ。」
「それはよかった!こういうのって家では味わえないよねー。」
さらにくじ引きの屋台では、るるが目を輝かせながら挑戦したが、結果はハズレの玩具。
「残念ー!でも楽しかった!」
「楽しんでいただけたなら、何よりです。」
霧島は淡々と答えつつも、どこか柔らかい表情を浮かべていた。
屋台を一通り巡った後、二人はすこし離れた場所にある喫煙所へ向かう。
「ここ、いいね。ゆっくり花火が見られそう!」
そこには木々に囲まれた簡易的なベンチと灰皿が置かれており、祭りの喧騒から少し離れた静かな場所だった。
夜風が心地よく、時折木々がざわめく音が聞こえる。
「そうですね。人混みは少し疲れますから。」
霧島が持っていたライターを取り出し、二人は煙草に火をつけた。
紫煙が夜空に溶け込み、風に乗って消えていく。夜空に花火が咲くたびに、その光が二人を照らす。
「晴人くん、花火ってさ、なんか特別だよね。」
「……確かに。こうやって静かに見ているだけでも、少し感傷的になりますね。」
「わかる!でもさ、こうやって一緒に見るともっと楽しいよね。」
「……ええ。一人で来るのとは全然違います。」
二人はしばらくの間、花火が夜空に咲くのを眺めながら煙草を吸い、互いに静かに会話を交わした。
花火が大きな音を立てて打ち上がるたび、るるの目が輝き、霧島はその横顔を見て小さく笑った。
「来て良かったなー、晴人くんと一緒に。」
「……僕も楽しめました。またこういう機会があれば。」
「来年も一緒に行こうね!」
るるが満面の笑みを浮かべて言うと、霧島は少し照れながら頷いた。
——木々のざわめきと夏の夜風が心地よく、花火の光が二人を照らしていた。たわいない話を交わしながら、夏の思い出がそっと刻まれていった。