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第34話:ホラー映画みませんか?

 ——夏の夜、街はお盆の静けさに包まれていた。

 霧島晴人は自宅のリビングで本を読んでいたが、手元のスマホが軽く震えた。

「LINE通知:甘坂るる」

『こないだ話してたホラー映画の話なんだけど、明日とかどう?』

 霧島は画面を見つめ、少しだけ考えた後、短く返信を打ち込む。

『夜なら大丈夫です。』

 すぐに返事が届く。

『やった!じゃあさ、映画館じゃなくて、サブスクで配信されてるやつにしよ?どっちかの家で見るのがよくない?』

『……わかりました。どちらにしますか?』

『晴人くんちでいい? 私、ポップコーンとか飲み物持ってくから!』

『了解しました。準備しておきます。』

 霧島は少しだけため息をつきながらスマホを置き、部屋を見渡した。もともと物が少ない部屋だが、来客のために簡単な掃除を始める。


 *


 翌日、夜になると、インターホンの音が鳴り響いた。

「晴人くーん、お邪魔しまーす!」

 るるの明るい声が響き、玄関を開けると、彼女が小さな手提げ袋を下げて立っていた。白地に淡いピンクのワンピースを着こなし、肩にかかる髪がふんわりと揺れている。

「こんばんは、甘坂さん。」

「お邪魔します! いやー、やっぱり晴人くんの家、想像通り綺麗だね!」

「……ありがとうございます。どうぞ。」

 るるは笑顔を浮かべながら靴を脱ぎ、リビングに足を踏み入れた。

「はいこれ、お邪魔するお礼ね! ポップコーンとジュース、それとチョコレートもあるよ!」

「どうも。助かります。」

 二人はソファに腰を下ろし、るるがタブレットを取り出した。

「じゃあ、早速選ぼっか! 私のおすすめホラー映画、2つに絞ってきたの!」

「……どちらも怖いんですか?」

「もちろん! でも、ちゃんとストーリーも面白いから安心して!」

 るるはにやりと笑いながら、映画の詳細を説明し始めた。最終的に選ばれたのは、心霊現象をテーマにした映画だった。

 映画が始まると、部屋の明かりが落とされ、画面から発せられる光だけが二人を照らした。

 序盤は静かに物語が進行していたが、中盤になると不気味な音楽とともに恐ろしい映像が展開される。

「ひゃっ!」

 るるが小さな悲鳴を上げる。

「……大丈夫ですか?」

 霧島は冷静を装いながら隣を見たが、その直後、突然大きな物音が鳴り響き、思わず肩を震わせた。

「ぷっ、晴人くん今、ビクッてしたよね!」

「……気のせいです。」

「絶対したって! ほら、やっぱりホラーは怖いでしょ?」

「……まあ、多少は。」

 二人は映画の緊張感に押されながらも、時折笑い声を交えつつ最後まで見終えた。

 映画が終わると、霧島は窓を開けてベランダに出た。

「甘坂さん、どうぞ。」

「ありがとー!」

 二人は灰皿のそばに立ち、煙草に火をつけた。

「一人で見るには少しきつい映画でしたね。」

 霧島が静かに煙を吐き出しながらつぶやくと、るるが笑いながら答えた。

「思ったより怖かったー! でも、二人で見ると怖さ半減するし楽しいでしょ?」

「……確かに。一人じゃ途中でやめていたかもしれません。」

「晴人くん、次も一緒に見よ? 今度はもっと怖いやつ選んであげるから!」

「……甘坂さんが一緒なら。」

 二人は夜の静けさの中、笑い声を交えながら煙を吐き出した。夏の夜風が心地よく、たわいない会話が続いていった。

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