——夏の夜、街はお盆の静けさに包まれていた。
霧島晴人は自宅のリビングで本を読んでいたが、手元のスマホが軽く震えた。
「LINE通知:甘坂るる」
『こないだ話してたホラー映画の話なんだけど、明日とかどう?』
霧島は画面を見つめ、少しだけ考えた後、短く返信を打ち込む。
『夜なら大丈夫です。』
すぐに返事が届く。
『やった!じゃあさ、映画館じゃなくて、サブスクで配信されてるやつにしよ?どっちかの家で見るのがよくない?』
『……わかりました。どちらにしますか?』
『晴人くんちでいい? 私、ポップコーンとか飲み物持ってくから!』
『了解しました。準備しておきます。』
霧島は少しだけため息をつきながらスマホを置き、部屋を見渡した。もともと物が少ない部屋だが、来客のために簡単な掃除を始める。
*
翌日、夜になると、インターホンの音が鳴り響いた。
「晴人くーん、お邪魔しまーす!」
るるの明るい声が響き、玄関を開けると、彼女が小さな手提げ袋を下げて立っていた。白地に淡いピンクのワンピースを着こなし、肩にかかる髪がふんわりと揺れている。
「こんばんは、甘坂さん。」
「お邪魔します! いやー、やっぱり晴人くんの家、想像通り綺麗だね!」
「……ありがとうございます。どうぞ。」
るるは笑顔を浮かべながら靴を脱ぎ、リビングに足を踏み入れた。
「はいこれ、お邪魔するお礼ね! ポップコーンとジュース、それとチョコレートもあるよ!」
「どうも。助かります。」
二人はソファに腰を下ろし、るるがタブレットを取り出した。
「じゃあ、早速選ぼっか! 私のおすすめホラー映画、2つに絞ってきたの!」
「……どちらも怖いんですか?」
「もちろん! でも、ちゃんとストーリーも面白いから安心して!」
るるはにやりと笑いながら、映画の詳細を説明し始めた。最終的に選ばれたのは、心霊現象をテーマにした映画だった。
映画が始まると、部屋の明かりが落とされ、画面から発せられる光だけが二人を照らした。
序盤は静かに物語が進行していたが、中盤になると不気味な音楽とともに恐ろしい映像が展開される。
「ひゃっ!」
るるが小さな悲鳴を上げる。
「……大丈夫ですか?」
霧島は冷静を装いながら隣を見たが、その直後、突然大きな物音が鳴り響き、思わず肩を震わせた。
「ぷっ、晴人くん今、ビクッてしたよね!」
「……気のせいです。」
「絶対したって! ほら、やっぱりホラーは怖いでしょ?」
「……まあ、多少は。」
二人は映画の緊張感に押されながらも、時折笑い声を交えつつ最後まで見終えた。
映画が終わると、霧島は窓を開けてベランダに出た。
「甘坂さん、どうぞ。」
「ありがとー!」
二人は灰皿のそばに立ち、煙草に火をつけた。
「一人で見るには少しきつい映画でしたね。」
霧島が静かに煙を吐き出しながらつぶやくと、るるが笑いながら答えた。
「思ったより怖かったー! でも、二人で見ると怖さ半減するし楽しいでしょ?」
「……確かに。一人じゃ途中でやめていたかもしれません。」
「晴人くん、次も一緒に見よ? 今度はもっと怖いやつ選んであげるから!」
「……甘坂さんが一緒なら。」
二人は夜の静けさの中、笑い声を交えながら煙を吐き出した。夏の夜風が心地よく、たわいない会話が続いていった。