――昼間の強烈な日差しが降り注ぎ、喫煙所の壁は触れると熱を感じるほどに熱くなっていた。
外からは、蝉の鳴き声が響き渡り、真夏の始まりを告げている。
湿気が少なくカラッとした暑さだが、空気は肌にまとわりつくような感覚を与えた。
霧島晴人は缶コーヒーを片手に、喫煙所の片隅で煙草に火をつけていた。
額にはうっすらと汗が浮かび、ハンカチで軽く顔を拭う。
「晴人くん、お待たせー!」
るるが楽しげに両手を軽く振りながら姿を現した。笑顔は陽光に負けないくらい輝いている。
白地に青い花柄のブラウスにショートパンツを合わせ、足元にはスポーティなスニーカーを履き、肩には小さなバッグを掛けている。
「遅れてごめんね!」
るるの首筋には汗が輝いていた。
「……甘坂さん、こんにちは。」
「暑いねー!晴人くん、ちゃんと水分補給してる?」
「ええ、一応。甘坂さんもお気をつけて。」
「そんな淡々としないでよー。ほら、一服したら行こう!」
るるは手早く煙草を取り出し、火をつけた。軽く息を吐きながら、霧島に笑いかける。
「でさ、ちゃんと準備できてる?今日は水着と浴衣だよ!」
「ええ、一応予定は空けていますが……。」
「じゃあ問題なし!さ、早速行こう!」
二人は喫煙所を出て、近くのショッピングモールへ向かった。
*
ショッピングモール内は涼しい空調が効いており、外の暑さから逃れた快適な空間が広がっていた。
人々が行き交う中、るるが勢いよく水着コーナーに向かう。
「まずは晴人くんの水着選びからね!」
「……僕のですか?」
「そうだよ!晴人くんが自分で選ぶと地味になりそうだから、私がアドバイスするって言ったじゃん!」
るるは真剣な表情でいくつかの水着を手に取り、霧島に見せる。
「これとかどう?地味すぎないし、リーフ柄で爽やかだし!」
「……派手すぎませんか?」
「全然平気!じゃあこれは?シンプルだけど爽やかでいい感じ!」
「それなら……まあ、悪くないですね。」
「決まり!次は浴衣ね!」
るるは霧島の水着を素早く選び取ると、迷うことなく浴衣コーナーへと足を向けた。
その後ろ姿には、どこか楽しげな勢いが漂っていた。
「ねえ、私の浴衣も選んでくれる?」
浴衣コーナーでるるが振り返りながら尋ねた。
「……僕がですか?」
「そうだよ!せっかくだし、晴人くんのセンス見てみたい。」
霧島は少し考え込みながら、白地に赤い花柄があしらわれた浴衣を手に取る。
「これなんてどうですか?……甘坂さんに似合うと思います。」
「うわー綺麗!!晴人くんって意外と見る目あるね!これにする!」
るるは嬉しそうに浴衣を抱えながら、霧島に甚平を勧め始めた。
「次は晴人くんの甚平だよ!これとか涼しそうじゃない?」
「……機能性だけなら問題ないですが、これ本当に着るんですか……。」
「大丈夫大丈夫!私が選ぶんだから間違いないって!」
るるが明るく言いながら、るるは試着室へと向かった。
試着室からるるが姿を現すと、霧島は一瞬言葉を失った。
「どう?これ、似合うかな?」
るるは照れくさそうにポーズをとりながら、霧島の反応をうかがう。
「……ええ、とても似合っていますよ。」
霧島が真面目に答えると、るるは満足げに頷いた。
「よかったー!サイズもピッタリだし、これで決まりだね!」
次は霧島の番だった。試着室のカーテンが開き、霧島が甚平姿で現れると、るるの目が輝いた。
「おお!めっちゃ似合ってる!晴人くん、やっぱりこういうの似合うんだね!」
「……ありがとうございます。」
霧島が苦笑しながら返すと、るるは楽しげに笑った。
「ほんとほんと!なんか雰囲気出てるよ。これにしよう!」
二人は互いに服装を確認し合い、試着の時間がいつの間にか楽しいひとときになっていた。
笑顔を浮かべながら、店員にも満足げにサイズの確認を終え、会計を済ませた。
買い物を終えた二人は、フードコートに向かった。
*
「私、冷やし中華にする!晴人くんは?」
「……チャーハンです。」
「またまたシンプルなチョイスだね。でも、おいしいよね!」
るるは笑顔で冷やし中華を一口食べ、「おいしい!」と目を輝かせた。
「晴人くんもちゃんと味わって食べてる?」
「ええ、悪くないですね。」
「だよね!買い物の後のご飯って特別おいしい気がする!なんかこう満足感!」
ランチを終えた二人は、再び喫煙所に戻った。夕方の陽射しが少しだけ和らぎ、風が涼しさを運んでいる。
「今日は良き買い物ができたねー!」
るるは煙草に火をつけながら言った。
「ええ、これで夏の準備は整いました。」
霧島も煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
「晴人くん、海も夏祭りも楽しみだね。」
「……今年の夏は思い出が増えそうです。」
るるは霧島を見上げて微笑みながら言った。
「今年は最高の夏になる気がするよ!」
霧島は少し照れたように視線を外しながら、静かに頷いた。
――喫煙所で交わされたたわいない会話が、二人の夏の期待をさらに膨らませていた。