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第32話:買い物いきませんか?

 ――昼間の強烈な日差しが降り注ぎ、喫煙所の壁は触れると熱を感じるほどに熱くなっていた。

 外からは、蝉の鳴き声が響き渡り、真夏の始まりを告げている。

 湿気が少なくカラッとした暑さだが、空気は肌にまとわりつくような感覚を与えた。

 霧島晴人は缶コーヒーを片手に、喫煙所の片隅で煙草に火をつけていた。

 額にはうっすらと汗が浮かび、ハンカチで軽く顔を拭う。

 「晴人くん、お待たせー!」

 るるが楽しげに両手を軽く振りながら姿を現した。笑顔は陽光に負けないくらい輝いている。

 白地に青い花柄のブラウスにショートパンツを合わせ、足元にはスポーティなスニーカーを履き、肩には小さなバッグを掛けている。

「遅れてごめんね!」

 るるの首筋には汗が輝いていた。

「……甘坂さん、こんにちは。」

「暑いねー!晴人くん、ちゃんと水分補給してる?」

「ええ、一応。甘坂さんもお気をつけて。」

「そんな淡々としないでよー。ほら、一服したら行こう!」

 るるは手早く煙草を取り出し、火をつけた。軽く息を吐きながら、霧島に笑いかける。

「でさ、ちゃんと準備できてる?今日は水着と浴衣だよ!」

「ええ、一応予定は空けていますが……。」

「じゃあ問題なし!さ、早速行こう!」

 二人は喫煙所を出て、近くのショッピングモールへ向かった。


 *


 ショッピングモール内は涼しい空調が効いており、外の暑さから逃れた快適な空間が広がっていた。

 人々が行き交う中、るるが勢いよく水着コーナーに向かう。

「まずは晴人くんの水着選びからね!」

「……僕のですか?」

「そうだよ!晴人くんが自分で選ぶと地味になりそうだから、私がアドバイスするって言ったじゃん!」

 るるは真剣な表情でいくつかの水着を手に取り、霧島に見せる。

「これとかどう?地味すぎないし、リーフ柄で爽やかだし!」

「……派手すぎませんか?」

「全然平気!じゃあこれは?シンプルだけど爽やかでいい感じ!」

「それなら……まあ、悪くないですね。」

「決まり!次は浴衣ね!」

 るるは霧島の水着を素早く選び取ると、迷うことなく浴衣コーナーへと足を向けた。

 その後ろ姿には、どこか楽しげな勢いが漂っていた。

「ねえ、私の浴衣も選んでくれる?」

 浴衣コーナーでるるが振り返りながら尋ねた。

「……僕がですか?」

「そうだよ!せっかくだし、晴人くんのセンス見てみたい。」

 霧島は少し考え込みながら、白地に赤い花柄があしらわれた浴衣を手に取る。

「これなんてどうですか?……甘坂さんに似合うと思います。」

「うわー綺麗!!晴人くんって意外と見る目あるね!これにする!」

 るるは嬉しそうに浴衣を抱えながら、霧島に甚平を勧め始めた。

「次は晴人くんの甚平だよ!これとか涼しそうじゃない?」

「……機能性だけなら問題ないですが、これ本当に着るんですか……。」

「大丈夫大丈夫!私が選ぶんだから間違いないって!」

 るるが明るく言いながら、るるは試着室へと向かった。

 試着室からるるが姿を現すと、霧島は一瞬言葉を失った。

「どう?これ、似合うかな?」

 るるは照れくさそうにポーズをとりながら、霧島の反応をうかがう。

「……ええ、とても似合っていますよ。」

 霧島が真面目に答えると、るるは満足げに頷いた。

「よかったー!サイズもピッタリだし、これで決まりだね!」

 次は霧島の番だった。試着室のカーテンが開き、霧島が甚平姿で現れると、るるの目が輝いた。

「おお!めっちゃ似合ってる!晴人くん、やっぱりこういうの似合うんだね!」

「……ありがとうございます。」

 霧島が苦笑しながら返すと、るるは楽しげに笑った。

「ほんとほんと!なんか雰囲気出てるよ。これにしよう!」

 二人は互いに服装を確認し合い、試着の時間がいつの間にか楽しいひとときになっていた。

 笑顔を浮かべながら、店員にも満足げにサイズの確認を終え、会計を済ませた。

 買い物を終えた二人は、フードコートに向かった。


 *


「私、冷やし中華にする!晴人くんは?」

「……チャーハンです。」

「またまたシンプルなチョイスだね。でも、おいしいよね!」

 るるは笑顔で冷やし中華を一口食べ、「おいしい!」と目を輝かせた。

「晴人くんもちゃんと味わって食べてる?」

「ええ、悪くないですね。」

「だよね!買い物の後のご飯って特別おいしい気がする!なんかこう満足感!」

 ランチを終えた二人は、再び喫煙所に戻った。夕方の陽射しが少しだけ和らぎ、風が涼しさを運んでいる。

「今日は良き買い物ができたねー!」

 るるは煙草に火をつけながら言った。

「ええ、これで夏の準備は整いました。」

 霧島も煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。

「晴人くん、海も夏祭りも楽しみだね。」

「……今年の夏は思い出が増えそうです。」

 るるは霧島を見上げて微笑みながら言った。

「今年は最高の夏になる気がするよ!」

 霧島は少し照れたように視線を外しながら、静かに頷いた。

 ――喫煙所で交わされたたわいない会話が、二人の夏の期待をさらに膨らませていた。



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