――駅前のゲームセンターに併設された喫煙所は、夜の静けさの中に浮かぶ小さな灯りだった。
夜の街灯が柔らかく照らし出す中、透明な仕切りに沿って映る光が波のように揺れている。
遠くから微かに響く電車の音と虫の声が、都会の喧騒の中に涼しさを添えていた。
霧島晴人は灰皿のそばに立ち、煙草に火をつけて静かに吸い込む。
「晴人くん!」
背後から明るい声が響き、振り返ると甘坂るるがいつもの笑顔で立っていた。
彼女はノースリーブの白いブラウスに薄いブルーのロングスカートを合わせていて、夏の夜の涼しさを感じさせる装いだった。
「こんばんは、甘坂さん。」
「やほー!なんかさ、今日は涼しくない?」
「夜風が少しだけ心地いいですね。」
るるは煙草を取り出し、軽やかな動きで火をつけた。
「涼しいといえばさ、夏といえばホラーじゃない?」
「……ホラーですか?」
「そう!怖い話とかさ、心霊スポットとか!晴人くん、怖いのとか平気?」
霧島は少し考え込むように視線を上げた。
「……どちらかといえば平気な方だと思います。ただ、心霊スポットに行くのはちょっと……。」
「えー、行ってみようよ!幽霊とか出たらどうする?」
「……出ると信じてないので、特に何も。」
「嘘だ!晴人くん、実際に出たら絶対ビビるでしょ?」
るるはいたずらっぽい笑顔を浮かべながら、霧島の方に一歩近づいた。
「例えばさ、シャンプーしてる時、後ろに誰かいるとか……。」
「……やめてください。そういうことを言うと、妙に気になるんですから。」
霧島が静かにため息をつくと、るるは楽しそうに笑った。
「やっぱりちょっと怖いんじゃん!」
「……不意に言われると、少しは気になりますね。」
「可愛いなー、晴人くんって意外と怖がり?」
霧島は軽く眉を寄せながらも、煙草を吸い込んで吐き出した。
「でも、肝試しとか心霊スポットには行きたくないですね。」
「じゃあさ、ホラー映画とかは?」
「映画なら……まあ、一緒に誰かがいるなら大丈夫です。一人だと、さすがに気が進みませんが。」
るるは驚いたように目を丸くした。
「へー!晴人くん、一人でホラー映画は無理なんだ?」
「……あまり、そういう雰囲気を楽しむ気にはならないですね。」
「じゃあさ、一緒にホラー映画観ようよ!二人で観たら怖さ半減だし、むしろ楽しめるよ!」
「それなら……いいかもしれませんね。」
るるは嬉しそうに煙草を一口吸い込んでから、ゆっくり吐き出した。
「やったー!決まり!夏だし、涼しい夜にホラー映画って最高じゃない?」
「そうですね。観るなら少し怖いくらいのものがいいです。」
「ふふ、私がオススメするから、晴人くんも楽しみにしてて!」
二人はしばらくホラー映画の話題で盛り上がり、観る映画の候補を挙げていった。
――夏の夜風が喫煙所を吹き抜け、二人のたわいない会話は静かに、でも確かに次の約束へと続いていった。