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第31話:ホラーって好きですか?

 ――駅前のゲームセンターに併設された喫煙所は、夜の静けさの中に浮かぶ小さな灯りだった。

 夜の街灯が柔らかく照らし出す中、透明な仕切りに沿って映る光が波のように揺れている。

 遠くから微かに響く電車の音と虫の声が、都会の喧騒の中に涼しさを添えていた。

 霧島晴人は灰皿のそばに立ち、煙草に火をつけて静かに吸い込む。

「晴人くん!」

 背後から明るい声が響き、振り返ると甘坂るるがいつもの笑顔で立っていた。

 彼女はノースリーブの白いブラウスに薄いブルーのロングスカートを合わせていて、夏の夜の涼しさを感じさせる装いだった。

「こんばんは、甘坂さん。」

「やほー!なんかさ、今日は涼しくない?」

「夜風が少しだけ心地いいですね。」

 るるは煙草を取り出し、軽やかな動きで火をつけた。

「涼しいといえばさ、夏といえばホラーじゃない?」

「……ホラーですか?」

「そう!怖い話とかさ、心霊スポットとか!晴人くん、怖いのとか平気?」

 霧島は少し考え込むように視線を上げた。

「……どちらかといえば平気な方だと思います。ただ、心霊スポットに行くのはちょっと……。」

「えー、行ってみようよ!幽霊とか出たらどうする?」

「……出ると信じてないので、特に何も。」

「嘘だ!晴人くん、実際に出たら絶対ビビるでしょ?」

 るるはいたずらっぽい笑顔を浮かべながら、霧島の方に一歩近づいた。

「例えばさ、シャンプーしてる時、後ろに誰かいるとか……。」

「……やめてください。そういうことを言うと、妙に気になるんですから。」

 霧島が静かにため息をつくと、るるは楽しそうに笑った。

「やっぱりちょっと怖いんじゃん!」

「……不意に言われると、少しは気になりますね。」

「可愛いなー、晴人くんって意外と怖がり?」

 霧島は軽く眉を寄せながらも、煙草を吸い込んで吐き出した。

「でも、肝試しとか心霊スポットには行きたくないですね。」

「じゃあさ、ホラー映画とかは?」

「映画なら……まあ、一緒に誰かがいるなら大丈夫です。一人だと、さすがに気が進みませんが。」

 るるは驚いたように目を丸くした。

「へー!晴人くん、一人でホラー映画は無理なんだ?」

「……あまり、そういう雰囲気を楽しむ気にはならないですね。」

「じゃあさ、一緒にホラー映画観ようよ!二人で観たら怖さ半減だし、むしろ楽しめるよ!」

「それなら……いいかもしれませんね。」

 るるは嬉しそうに煙草を一口吸い込んでから、ゆっくり吐き出した。

「やったー!決まり!夏だし、涼しい夜にホラー映画って最高じゃない?」

「そうですね。観るなら少し怖いくらいのものがいいです。」

「ふふ、私がオススメするから、晴人くんも楽しみにしてて!」

 二人はしばらくホラー映画の話題で盛り上がり、観る映画の候補を挙げていった。

 ――夏の夜風が喫煙所を吹き抜け、二人のたわいない会話は静かに、でも確かに次の約束へと続いていった。

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