――窓の外に響く雨音。
駅前のマンションで、霧島晴人はスマホの振動音に気づいた。
「LINE通知:甘坂るる」
『晴人くん、今日雨だけど、この前話してた漫画喫茶いける?夜だけど明日も予定大丈夫?』
メッセージを開いた霧島は、少し考えた後、短く返信した。
『大丈夫です。何時に集合しますか?』
すぐに返事が返ってくる。
『やった!じゃあ今日の深夜に集合!詳細はまた送るねー!』
画面を見ながら、霧島は軽く笑みを浮かべた。
「……深夜に漫画喫茶ですか。」
*
――雨が止む気配のない夜。
駅近くにある漫画喫茶のネオンが、雨粒を受けた路面に反射し、静かな輝きを放っている。
霧島が店に到着すると、入口付近に立っていたるるが手を振った。
「晴人くん、こっちこっち!」
るるは薄手のパーカーにショートパンツ、足元にはスニーカーというカジュアルな服装だった。湿気を含んだ金髪がわずかに揺れ、その笑顔は雨の夜に一瞬の明るさを添えている。
「甘坂さん、こんばんは。」
「おつおつー!さ、早速入ろう!」
店内に入ると、柔らかな照明が出迎えた。受付カウンターの奥には、仕切りで区切られた座席や、天井近くまで積み上げられた本棚が広がっている。
「わー、私も結構久しぶりかも!」 るるは興奮気味に店内を見回す。
霧島は受付でナイトパックを選択しながら言った。
「甘坂さん、座席はどうしますか?個室かオープンスペース、それとも……。」
「ねえ、シアタールームってやつ気にならない?完全個室で映画見られるんだって!しかも喫煙可だよ!」
霧島は軽く驚きながら頷いた。
「それは快適そうですね。シアタールームにしましょう。」
入口のレジ横には小さな商品棚があり、様々なスナック菓子やアイスが並んでいた。
「お菓子も買っとこうよ!」
るるが楽しげにスナック菓子を手に取り、霧島の方を振り返った。
「晴人くん、これ食べる?それとも甘いのがいい?」
「どちらでも構いませんよ。」
「じゃあこれとこれね!」
彼女はポテトチップスとチョコレートを選び、会計を済ませた。
受付を済ませた二人は、案内された部屋に入った。広めのリクライニングソファと大画面のモニターが設置されており、空調も心地よい温度に調整されている。
「すごーい!これ、めっちゃ贅沢じゃん!」
るるはリクライニングソファに座りながら、大画面を見上げて感嘆の声を上げた。
霧島は少し笑みをこぼしながら、灰皿を手に取り二人の間に置いた。
「確かに、この環境はなかなかないですね。」
二人はお菓子をテーブルに並べ、飲み物を取りにドリンクバーへ向かった。
炭酸飲料から温かいコーヒーまで多彩な選択肢が並び、るるはコップを片手に嬉しそうに選んでいた。
「何飲む?私はこれ、ピーチソーダ!」
「僕はアイスコーヒーにします。」
飲み物を手に席へ戻ると、二人は映画を選び始めた。
「何見る?アクション系?それともコメディ?」
るるがリモコンを操作しながら尋ねる。
「どうぞ、甘坂さんの好きなものを。」
「じゃあ、今日はアクションにしようかな!」
選んだ映画がスクリーンに映し出されると、二人はリクライニングシートを倒し、煙草を手にリラックスした。
「晴人くん、ガラスの灰皿っていいよね。なんか懐かしい感じがする。」
「……確かに、雰囲気がありますね。」
るるは軽く煙を吐き出しながら、スクリーンに目を向けた。
映画が進むにつれて、迫力あるシーンにるるが声を上げる。
「やばい!めっちゃかっこいい!」
霧島は少しだけ笑いながら、画面を見つめていた。
「派手ですね。でも、面白いです。」
映画が終わると、るるは満足そうに伸びをしながら言った。
「最高だったね!煙草吸いながら見る映画、クセになりそう!」
「それは同意します。贅沢な時間でしたね。」
次に二人は漫画コーナーへ足を運び、それぞれ好きなジャンルの本を手に取った。
るるは少年少女漫画の棚で目を輝かせながら選び、霧島は静かにミステリー特集の棚を見ていた。
「これとか懐かしい!晴人くんも読む?」
「……タイトルだけは知っています。」
「じゃあ読んでみなよ!面白いから!」
再び個室に戻ると、二人は選んだ漫画を読みながら時折感想を交わし、静かな時間を過ごした。
「ねえ、晴人くん。漫画喫茶って本当にいいね。煙草が吸えてこんなにリラックスできる場所、他にないかも。」
「確かに。雨の日には特に最適ですね。」
二人はシアタールームで煙草を吸いながら、夜更けの静けさを味わっていた。
「次も雨の日に来たいね。」
ガラスの灰皿に溜まった吸い殻を見て、るるが静かに笑いながら言うと、霧島は軽く頷いた。
「……その時はまた、別の映画でも見ましょう。」
二人の間に流れる空気は穏やかで、心地よい満足感が漂っていた。
――深夜の漫画喫茶で過ごしたたわいない時間が、二人にとって特別な思い出となって刻まれた。