――夜の喫煙所に響く雨音。
駅前のゲームセンターの片隅にある喫煙所は、夜の街灯に照らされて薄い霧のような輝きを帯びていた。
梅雨特有の湿り気を含んだ空気が、喫煙所の静けさをさらに引き立てている。
透明なパネルで囲まれた空間には雨粒がリズムよく当たり、その音が小さな音楽のように響いている。
霧島晴人はいつものように煙草に火をつけ、一口吸い込んでから静かに煙を吐き出した。雨の匂いが混ざった空気が、心をどこか落ち着かせる。
扉が軽い音を立てて開き、甘坂るるが現れた。
彼女はシンプルな薄手のシャツにグレーのパンツ、足元にはカジュアルなスニーカーを合わせている。
傘を閉じた後、髪にはいくつかの水滴が光っていた。
「晴人くん、お疲れー。雨の日もいつも通りだね。」
「甘坂さん、こんばんは。いつも通りというか……雨の日は特に人が少ないですね。」
るるは笑顔を浮かべながら煙草を取り出し、火をつけた。
「こういう静かなのも悪くないよね。でも、雨の日ってなんかさ、逆に時間の使い方に悩まない?」
霧島は缶コーヒーを片手に首を軽くかしげた。
「悩む……ですか?僕は家でのんびりするのが基本ですね。ゲームとか。」
「やっぱり晴人くんっぽいなー。」
るるは軽く煙を吐き出しながら、楽しげに続けた。
「私もゲームするけど、なんかこう気分じゃない時にさ、映画とか読書とか、雨の日でもやりたいことがいっぱい出てくるよ。」
「……僕は気がついたらゲームしてるって感じで。昔は読書とかもしていたんですが……。」
「気持ちはわかる!けど、ちょっと気分を変えるなら家じゃなくてさ、漫画喫茶もいいよ。知ってる?ドリンクバー飲み放題でさ、漫画読みながらタバコも吸えるんだよ。」
霧島は少し驚いた表情を見せた。
「漫画喫茶……あまり行ったことがないですね。」
「意外!晴人くん、絶対ハマると思うよ。漫画も映画もみれるし、しかもソファとかリクライニングシートでリラックスできるの。もう最高!なんだったらPCでゲームもできるし!」
「確かにそれは快適そうですね。」
るるはさらに熱を込めて話し始めた。
「しかもさ、ドリンクバーで好きなだけ飲めるし、夜に行くと意外と空いてて静かなんだよね。雨の日なんて特に最高だよ。」
霧島は少し考え込むように頷いた。
「それなら、今度行ってみるのもいいかもしれませんね。」
るるは目を輝かせながら言った。
「じゃあさ、次の雨の日、晴人くんも一緒に行こうよ!5628喫煙部、夜更かし漫喫計画始動だよ!」
霧島は軽く煙を吐き出しながら、少し呆れたように返した。
「……その名前、わざわざ付ける必要ありますか?」
「えー、雰囲気出るじゃん!盛り上がるでしょ!」
るるは胸を張って得意げに笑った。
「まあ、名前はともかく……わかりました。次の雨の日ですね。」
「やった!晴人くん、絶対楽しめると思うから!」
るるは満足げに煙草を灰皿に押し付けると、霧島に向かって指を指しながら念押しするように言った。
「ちゃんと予定空けておいてよね!」
霧島は小さく笑いながら頷いた。
喫煙所に響く雨音は、二人の会話を優しく包み込むようだった。
――雨の日の喫煙所で交わされるたわいない会話が、静かに二人の時間をつないでいた。