――初夏の日差しが降り注ぐ駅前のゲームセンターに併設された喫煙所。
昼下がりの陽射しは強く、アクリル板越しに入る光がタイル床を明るく照らしている。
外を歩く人々は、半袖のシャツやサンダル姿が目立つ。
霧島晴人は喫煙所の片隅に立ち、缶コーヒーを片手に煙草を取り出した。
缶を握る手に伝わる冷たさが心地よく、陽射しの強い外界とは切り離されたような、穏やかな影の空間が喫煙所に広がっていた。
「晴人くん!やっほー!」
軽快な声とともに、甘坂るるが現れた。彼女は薄手の花柄ワンピースに白いスニーカーを合わせ、麦わら帽子を手に持っている。
肩にかかった金髪が陽射しを受けてきらきらと輝き、その笑顔が喫煙所の空気を一瞬で明るくした。
「……甘坂さん、こんにちは。」
「暑いねー!もう夏って感じだよね。」
「確かに、今日は特に日差しが強いですね。」
るるは煙草を取り出しながら言った。
「ねえ、晴人くんってプールとか海行く?」
「……しばらく行ってませんが。最後に行ったのは、多分学生時代です。」
「そっかー。私はね、プールもすきだけど海派かな!砂浜で波の音聞いてるだけでもリラックスできるんだよねー。」
「確かに。砂浜に座ってるだけでも結構楽しいものですよね。」
るるは小さく笑いながら、煙を一口吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
「そういえば、晴人くんって水着持ってる?」
「いや……さすがに数年行ってないんで処分しました。必要なときに買えばいいと思っています。」
「それ、夏が来る前に準備しとかないと、いざってときに困るんだからね!」
「……そんな時……あります?」
「じゃあさ、せっかくだし、一緒に買いに行かない?」
「一緒にですか?」
「うん!だって、晴人くんのセンスって、どうせ黒の無地とかシンプルすぎるんでしょ?」
「……否定はしません。」
「ほらー!だから私がアドバイスしてあげるよ!」
るるは得意げに胸を張り、楽しそうに微笑んだ。
「でも、こういうのって時間かかりますよね。」
「大丈夫大丈夫!私、こう見えて効率よく選べるんだから!」
霧島は少し呆れたように笑いながらも、軽く頷いた。
「それなら、お願いしようかなと思います。」
「やった!じゃあ、そのときはちゃんと覚悟してね!」
しばらく沈黙が流れた後、るるが再び話題を振った。
「でもさ、海ってやっぱり特別だよね。波の音とか、あの独特の匂いとかさ。」
「確かに、海には独特の雰囲気がありますね。子どもの頃はよく行きましたけど、最近は……。」
「じゃあ、今年は久しぶりに行こうよ!砂浜でのんびりするだけでも楽しいからさ。」
「そうですね。久しぶりに海を見るのも悪くないかもしれません。」
「やった!決まり!晴人くん、一緒に水着見に行くからね!」
「わかりました。甘坂さんがそこまで言うなら。」
二人はお互いに笑いながら、喫煙所での会話を楽しんでいた。
――昼下がりの喫煙所で交わされたたわいない話が、夏への期待とともにゆっくりと広がっていった。