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第27話:夏の準備ってなんですか?

 ――初夏の日差しが降り注ぐ駅前のゲームセンターに併設された喫煙所。

 昼下がりの陽射しは強く、アクリル板越しに入る光がタイル床を明るく照らしている。

 外を歩く人々は、半袖のシャツやサンダル姿が目立つ。

 霧島晴人は喫煙所の片隅に立ち、缶コーヒーを片手に煙草を取り出した。

 缶を握る手に伝わる冷たさが心地よく、陽射しの強い外界とは切り離されたような、穏やかな影の空間が喫煙所に広がっていた。

「晴人くん!やっほー!」

 軽快な声とともに、甘坂るるが現れた。彼女は薄手の花柄ワンピースに白いスニーカーを合わせ、麦わら帽子を手に持っている。

 肩にかかった金髪が陽射しを受けてきらきらと輝き、その笑顔が喫煙所の空気を一瞬で明るくした。

「……甘坂さん、こんにちは。」

「暑いねー!もう夏って感じだよね。」

「確かに、今日は特に日差しが強いですね。」

 るるは煙草を取り出しながら言った。

「ねえ、晴人くんってプールとか海行く?」

「……しばらく行ってませんが。最後に行ったのは、多分学生時代です。」

「そっかー。私はね、プールもすきだけど海派かな!砂浜で波の音聞いてるだけでもリラックスできるんだよねー。」

「確かに。砂浜に座ってるだけでも結構楽しいものですよね。」

 るるは小さく笑いながら、煙を一口吸い込み、ゆっくりと吐き出した。

「そういえば、晴人くんって水着持ってる?」

「いや……さすがに数年行ってないんで処分しました。必要なときに買えばいいと思っています。」

「それ、夏が来る前に準備しとかないと、いざってときに困るんだからね!」

「……そんな時……あります?」

「じゃあさ、せっかくだし、一緒に買いに行かない?」

「一緒にですか?」

「うん!だって、晴人くんのセンスって、どうせ黒の無地とかシンプルすぎるんでしょ?」

「……否定はしません。」

「ほらー!だから私がアドバイスしてあげるよ!」

 るるは得意げに胸を張り、楽しそうに微笑んだ。

「でも、こういうのって時間かかりますよね。」

「大丈夫大丈夫!私、こう見えて効率よく選べるんだから!」

 霧島は少し呆れたように笑いながらも、軽く頷いた。

「それなら、お願いしようかなと思います。」

「やった!じゃあ、そのときはちゃんと覚悟してね!」

 しばらく沈黙が流れた後、るるが再び話題を振った。

「でもさ、海ってやっぱり特別だよね。波の音とか、あの独特の匂いとかさ。」

「確かに、海には独特の雰囲気がありますね。子どもの頃はよく行きましたけど、最近は……。」

「じゃあ、今年は久しぶりに行こうよ!砂浜でのんびりするだけでも楽しいからさ。」

「そうですね。久しぶりに海を見るのも悪くないかもしれません。」

「やった!決まり!晴人くん、一緒に水着見に行くからね!」

「わかりました。甘坂さんがそこまで言うなら。」

 二人はお互いに笑いながら、喫煙所での会話を楽しんでいた。

 ――昼下がりの喫煙所で交わされたたわいない話が、夏への期待とともにゆっくりと広がっていった。

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