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第26話:もうすぐ1年なんですか?

 ――その日、霧島晴人はいつものように駅前のゲームセンターに足を運んでいた。

 空は厚い雲に覆われ、しとしとと降り続ける雨が街全体を包み込んでいる。

 路面に映る街灯の光が水たまりを輝かせ、湿った空気が彼の髪に少しまとわりついていた。

 手には缶コーヒーが握られ、淡々とした表情で慣れた足取りを見せる。

 ゲーセンの入り口を横目に、彼はそのまま喫煙所の扉を押し開けた。


「……ふぅ。」

 静まり返った喫煙所の中、霧島は煙草を取り出し、手際よく火を灯した。

 灰皿に落ちた小さな火の粉が一瞬だけ輝き、静かな雨音とともに空間に溶け込んでいく。


 その時、扉がゆっくりと開き、外の雨音と一緒に明るい声が飛び込んできた。

「あ、よかった。ここ喫煙所で合ってますよね?」


 振り返った霧島は、一瞬驚いた顔を浮かべたが、すぐにその声の主が甘坂るるだと気づいた。

「……甘坂さん、なにふざけてるんですか?」

「えへへ、ちょっと思い出してね!懐かしいでしょ?」

 るるは軽く笑いながら、手元の煙草に火をつけた。


「……まあ、そんな感じのこともありましたね。」

 霧島は少しだけ苦笑しながら煙を吐き出した。

「でも、あれからもうすぐ1年なんですね。」

「そうだねー!晴人くんとこうして会うようになってから、もうそんなに経つんだ。」

 るるは灰皿に目をやりながら、小さく息を吐いた。

「初めて会ったときも雨だったよね?あのとき晴人くん、なんかすごく真面目そうで怖かったなー。」


「……それ、言われてましたね。よく覚えてます。」

「そりゃ覚えてるよー!だって、晴人くんって本当は優しい人なのに、あの時はなんかガチガチだったもん。」

 るるがクスクスと笑うと、霧島もつられて小さく微笑んだ。


「甘坂さんだって、あのときはずいぶん自由な印象でしたよ。」

「えー、自由ってどんなイメージ?」

「……そうですね、初対面でも全然気にせず突っ込んでくる感じ。」

「それ、貶してる?」

「……褒めてます。」

 るるは肩をすくめながら軽く煙を吐き出した。


 雨音が静かに響く中、二人はしばらく言葉を交わさずに煙草を吸った。

 ふと、るるが静かに口を開いた。

「……でもさ、1年ってあっという間だね。」

「そうですね。でも、いろいろありましたよ。」

 霧島のその言葉に、るるは少しだけ真面目な表情になった。

「……晴人くんとこうして喫煙所で話す時間、私にとっては結構大事だったんだよね。」

「それは、どういう意味ですか?」

「うーん、なんていうか、こういう普通の時間が一番落ち着くっていうかさ。」

「……なるほど。」


 霧島は静かに頷き、少しだけ笑みを浮かべた。

 雨の匂いと煙が静かに混ざり合い、喫煙所の中を満たしていく。

「また来年も、こうして話してるんですかね。」

「そうじゃない?晴人くんがここにいる限り、私はきっと来るよ。」

「……それなら、楽しみにしておきます。」

 るるは満足げに微笑み、最後の一口を吸い終えると煙草を灰皿に押し付けた。


 ――雨の日の喫煙所で交わされるたわいない話は、静かに、でも確かに二人の時間を紡いでいた。

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