――休日の朝、霧島晴人はスマホの通知音で目を覚ました。
窓から差し込む柔らかな日差しがカーテンの隙間から部屋を照らし、休日特有のゆったりとした空気が漂っている。
「LINE通知:甘坂るる」
『晴人くん、明日か明後日、暇してない?』
メッセージを確認した霧島は少し驚きながらも返信した。
霧島晴人:『急ですね。でもちょうど休みなので大丈夫です。』
甘坂るる:『やった!じゃあこの前話してたどこかにお出かけしない?』
霧島晴人:『大丈夫ですけど、どこに行くんですか?』
甘坂るる:『映画とかどうかな?』
霧島晴人:『いいですよ。』
約束が決まると、霧島は少し緊張したように深呼吸をした。
*
――駅前の映画館前で待ち合わせた休日の昼下がり。
霧島晴人は黒のジャケットを羽織り、スリムなパンツと白いスニーカーというシンプルながら落ち着いた装いで現れた。
少し早めに着いた霧島が周囲を眺めていると、ツイードのワンピースを着た甘坂るるが、微笑みながら手を振っていた。
「晴人くん、やっほー!待たせちゃった?」
「いえ、大丈夫です。甘坂さん、今日は映画を見るんですよね。」
「そうそう!何見るか、歩きながら決めよう!」
二人は映画館の入口へ向かって歩き始めた。途中、喫煙所の文字が目に留まる。
「晴人くん、あそこに喫煙所あるよ。とりあえず一服しない?」
「そうですね。行きましょう。」
喫煙所は映画館の片隅にあり、周囲を透明なアクリル板で囲われていた。霧島は煙草に火をつけ、るるも隣で同じように煙草を吸い始める。
「……なんかさ、映画館に来てもこうやって一服できる場所があると安心するよね。」
「そうですね。リラックスして映画を楽しめそうです。」
軽く会話を交わした後、二人は喫煙所を後にし、映画のチケット売り場に向かった。
「じゃあ、これにしよう!」
るるが指差した映画は話題のアクション映画だった。チケットを購入し、館内へ入る。上映が始まると、スクリーンには迫力満点の映像が映し出され、二人は映画の世界に引き込まれていった。
上映後、館内を出るとるるが明るい声で感想を口にした。
「楽しかったねー!」
「はい、迫力がすごかったですね。」
るるがふと足を止めて霧島を見上げる。
「ねえ、まだ時間大丈夫?おなかすいたし、ご飯食べない?」
「大丈夫ですよ。何か食べたいものありますか?」
「焼き肉とかどう?お肉食べたい気分なんだよね。」
「いいですね。行きましょう。」
二人は近くの焼き肉屋に入り、テーブル席に案内された。煙が立ち昇る七輪を囲みながら、るるがトングで肉を焼き始める。
「やっぱり焼き肉って最高だよねー!晴人くん、どれから食べる?」
「じゃあ、カルビからいただきます。」
ジュージューと焼ける音が食欲をそそり、二人は次々と焼けた肉を口に運ぶ。
「晴人くん、おいしい?」
「ええ、すごく美味しいです。」
るるは満面の笑みを浮かべながら、肉を口に運び、軽く目を閉じて味わった後、目を輝かせて言った。
「お肉最高においしい!晴人くんと一緒だと余計に!」
霧島は少し照れたように箸を動かしながら、小さく頷いた。そんな彼を見て、るるはくすっと笑う。
食事を楽しんだ後、るるは指先で喫煙所の方向を示した。目を少し見開きながら霧島の方をじっと見て、無言の合図を送る。
霧島はその仕草に気づき、軽く笑いながら言った。
「……行きましょうか。」
喫煙所は店内の奥にあり、いつもの喫煙所よりももっと静かな空間だった。二人は並んで煙草に火をつけ、しばらく無言で煙を吐き出す。
「……なんで食後の一服ってこんなに美味しいんだろうね。」
「確かに。不思議ですよね。」
るるがふと霧島の顔を見て、軽く笑いながら言った。
「ねえ、晴人くん。これってさ、デート?」
霧島は一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに冷静に答えた。
「……どうなんでしょうね。でも、楽しい時間を過ごせたのは確かです。」
「ふふ、そうだね。じゃあ、またどこか行こうね!」
「……ええ、ぜひ。」
二人の声が静かな喫煙所に響き、柔らかな笑い声が空間を包み込んだ。
――穏やかな休日に繰り広げられたたわいないやりとりが、二人の心をまた少しだけ結びつけた。