――夕食を終えた霧島晴人はリビングのソファに腰を下ろしていた。
壁にかけられた時計が静かに針を進め、近所の住宅から漏れる光が窓際をほんのりと照らしている。
手元のスマホが震え、LINEの通知が画面を光らせた。
「LINE通知:甘坂るる」
『今暇だったら、こないだ言ってたゲームのトレーニング付き合ってよ!』
霧島はスマホを手に取り、短く返信した。
霧島晴人:『いいですよ、お風呂に入ったらできます。』
甘坂るる:『じゃあ私も今のうちにおふろー!後で通話つないで!』
メッセージを見た後、霧島は少しだけ苦笑しながら立ち上がり、シャワーを浴びに向かった。
支度を済ませ、パソコンを立ち上げる頃には、るるから再び通知が届いていた。
甘坂るる:『準備できたよ!ディスコ入るね!』
霧島晴人:『了解です。』
少しの待ち時間の後、ディスコードの通知音が響いた。
「晴人くん、お待たせー!」
ヘッドセット越しに響くるるの元気な声が霧島の耳に届く。
「……お疲れさまです。準備できましたか?」
「もちろん!キャラクター何がいいかな~?やっぱりライフラとかサポート系がいい?」
「今サポートロールはかなり強いみたいなので、ライフラインはいいと思います。あとはパスファインダーとか移動キャラも良いと思います。」
「今結構サポートロールが強いっぽいよね!じゃあ私、ライフラにするね!」
「……それなら、僕はパスファで行きます。」
「いいじゃん!じゃあ早速やろー!」
ゲームが始まり、画面上で二人のキャラクターが並び立つ。るるの声はいつも以上に生き生きとしていた。
「どこ降りる?最初って場所大事だよね!」
「そうですね。初動ファイトは避けてファームできる場所を選びましょう。」
「じゃあ、ここ!」
るるがピンを立て、二人は指定したエリアに降下した。
――『敵が近くに着地した。』というゲーム内のボイスが響き、画面越しに緊張感が広がった。
「ちょっと待って!敵いる!パンチしてる!」
「……甘坂さん、初動ファイトは避けるんじゃ……?」
霧島は思わず苦笑しながらも、るるのキャラクターの位置を素早く確認する。画面上では、敵プレイヤーがるるを素手で追い回している。
「武器ない!やばい!パンチしかないんだけど!」
画面上の動きに合わせて、るるの声が忙しく飛び交う。霧島は即座に武器を拾い、グラップリングフックを射出した。
――フックが敵の背後にある壁に引っ掛かり、パスファインダーが勢いよく空中を滑るように接近する。
「今行きます。」
霧島のキャラクターが接地すると同時にショットガンを構え、敵キャラクターに向かって弾を放つ。
1発、2発と連続して撃ち込まれた弾丸が敵キャラクターを捉え、素早くノックダウンに追い込む。
「おお!さすが晴人くん!めっちゃ頼りになる!」
るるが安堵の声を上げ、アイテムを拾おうとしゃがみ込む中、霧島は残りの敵の警戒をしていた。
「まだ2人いる。警戒してください。」
「了解!野良さんが近くにいるみたい!」
画面上、残りのチームメイトのキャラクターがすでに高所を確保し、遠距離武器のセンチネルで敵を牽制している。
「野良さん1人ダウン取ったよ!」
るるの声が響き、画面には敵の1人が倒されるログが表示される。
「残り1人は右側に回り込んでます。甘坂さん、カバーをお願いします。」
「オッケー!この建物の裏だね?」
るるは建物を回り込み、慎重に敵を追い詰める。
「詰めます!」
霧島が一直線に距離を詰め、敵の正面に滑り込む。野良プレイヤーが遠距離からカバー射撃を行い、3人の息の合った攻撃で最後の敵が倒れる。
「助かったー!ほんと、晴人くんがいなきゃ絶対やられてた!」
「……野良の方も甘坂さんもいい動きをしていましたね。ありがとうございました。……装備を整えて漁夫に備えましょう。」
「バッテリー5本あるよ、いる?」
「1本もらいます。助かります。」
二人は落ちているアイテムを拾いながら、次のエリアに移動を開始した。
――『敵を確認。』
「そのオクタン、激ローだよ!」
「了解です、詰めます……。」
試合は緊張感を伴いながら進行したが、二人の息の合った連携で敵チームを次々と撃破していった。
「晴人くん、パスファってほんと便利だね。ジップラインのおかげでピンチ脱出できたし!」
「……そうですね。使い慣れると戦略の幅が広がりますね。」
「たまに使うんだけど、グラップルが難しくて!」
ゲーム内の試合は終盤を迎え、残りの敵チームとの最終決戦へ。
「ラスト3部隊!いけるいける!」
「……先にポジションを取りましょう。」
慎重な立ち回りの末、見事に最後の敵チームを撃破。二人は画面に映し出された「CHAMPION」の文字を見て歓声を上げた。
「やったー!晴人くん、いきなりチャンピオン!」
「……野良の方の動きもめちゃくちゃよかったですね。ありがとうございました。」
「この調子で次いこ次!」
「もちろん。眠くなるまでお付き合いしますよ。」
二人の声が画面越しに重なり、部屋の静けさを温かく包み込んだ。
――ゲームの世界で交わされたたわいない会話が、二人の絆をさらに深めていった。