ーー雨がしとしとと降り続く午後、駅前のゲームセンターに併設された喫煙所では、ガラス越しに水滴が滑る音が微かに響いていた。
雨粒が窓を流れる様子はまるで音符が踊るようで、静寂を優しく包み込んでいる。
霧島晴人は今日も缶コーヒーを片手に、灰皿の前で一服していた。煙草の先から立ち上る煙が雨の湿気を含んだ空気に溶け込んでいく。
「晴人くん、こんな雨でもちゃんとここにいるんだねー。」
明るい声とともに甘坂るるが喫煙所に入ってきた。今日はフード付きの黒いレインコートを羽織り、足元には光沢のあるベージュのレインブーツを履いていた。
濡れた髪が頬に張り付き、無造作にフードを外す仕草に少し疲れたような表情が見えたが、その分笑顔はいつも以上に柔らかかった。
「……甘坂さん、こんにちは。雨の中ご苦労様です。」
「やだなー、そんなお堅い挨拶しなくてもいいのに。」
るるは煙草を取り出し、軽やかに火をつけた。小さな炎が揺れ、彼女の指先がわずかに震える。火を灯す動作に続けて、彼女は煙をふっと吐き出しながら、霧島を見上げた。
「ねえ、晴人くんって誕生日いつなの?」
突然の問いかけに、霧島は少し眉を上げた。
「誕生日ですか?九月ですよ。甘坂さんは?」
「私?八月だよー!夏生まれって感じでしょ?」
彼女は胸を張って笑顔を見せた。その笑顔が子供のように無邪気で、霧島は思わず視線をそらした。
「確かに、夏の明るさが甘坂さんに合ってるかもしれませんね。」
「えへへ、ありがと!じゃあさ、誕生日にお互いプレゼント交換とかしちゃう?」
「プレゼント交換……ですか。」
霧島は少し考え込むような仕草を見せた。るるはその様子に満足げな笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「タバコのカートンとかでどう?」
「実用的ではありますが、味気ない気がしますね。」
「だよねー。じゃあ、どうする?」
るるは足元のレインブーツを軽く揺らしながら言った。その仕草がなんとも軽やかで、霧島は思わず微笑んでしまう。
「お互いに五千円未満で何か用意して、誕生日まで内緒にするのはどうですか?」
「それ、いいね!秘密にするっていうのがワクワクする!」 るるは満面の笑みを浮かべた。
「ただ、あまり期待しないでくださいね。」
「えー、期待はしちゃうかな……!私も悩むだろうなー。」 るるは煙草を吸いながら窓の外を見つめ、何かを思案するように口元に手をあてた。その仕草は、いつもの活発さとは少し違う静けさをまとっていた。
「ところで、甘坂さんはどんなものが欲しいとかありますか?」
「うーん、そうだなあ。あえて言うなら……実用的なものか、形に残るものがいいかな!」 彼女は目を輝かせながら晴人くんを見た。
「実用的なもの、ですか。……選びがいがありますね。」
「ふふ、楽しみにしてるからねー!」 彼女の無邪気な言葉に、霧島は小さく肩をすくめた。
二人は笑いながら窓越しに降り続く雨を見つめた。雨音が静かに二人を包み込む中、窓越しに見えるぼんやりとした街並みがどこか温かく映った。
――駅前のゲームセンターの喫煙所には、今日も二人のたわいない話が雨音と共に流れていった。