――駅前のゲームセンターに併設された喫煙所。
周囲の建物からは、営業を始めたばかりのカフェやコンビニから立ち上る香ばしい匂いがわずかに漂っている。
霧島晴人は壁際に立ち、静かに缶コーヒーを持ち上げると、缶の冷たさが指先にじんわりと伝わってきた。
床のタイルには朝の陽光が跳ね返り、彼の影が淡く映り込んでいる。遠くで聞こえる電車の音が、静かな喫煙所に微かな振動をもたらしていた。
「晴人くん、いたいたー!」
明るい声とともに甘坂るるが現れた。今日はデニムジャケットを軽く羽織り、黒のショートパンツにタイツを合わせたカジュアルな装いだ。
足元のスニーカーが軽快なリズムを刻むたびに、彼女の動きに光がきらめいていた。
「……甘坂さん、こんにちは。」
「ねえねえ、晴人くんってオンラインゲームとかやるの?」
るるが興味津々に目を輝かせながら聞いた。その声に軽く笑みを浮かべた霧島は、缶コーヒーを片手に軽く首をかしげた。
「オンラインゲーム……ですか。学生時代は友達と一緒に少しだけやっていましたね。」
「へえ、じゃあ最近はやってないの?」
「最近は忙しくて、気づいたら遠ざかっていましたけどね。」
るるは不満そうに頬を膨らませながら、足元のタイツを軽く引っ張りながら座り直した。
その仕草にふとした仕草の愛らしさを感じた霧島は、目をそらすように缶コーヒーをもう一口含んだ。
「私、今FPSにハマってるんだよね!特に夜にやると時間が一瞬で過ぎちゃう!」
「FPSですか……最近はやってないですね。でも、どんな感じのゲームなんですか?」
「バトロワ系?っていうのかな、判断力とか反射神経も必要な感じかな?すごく面白いよ。」
「それは興味深いですね。具体的にどんなタイトルをプレイしてるんですか?」
「Apexだよ!近々、配信者の大会があるから練習しようと思ってるんだ。」
「Apexなら少しやっていたので、基本的な部分ならわかると思います。」
「ほんと?じゃあ晴人くん、トレーニング相手になってよ!」
「……久しくやってないので、役に立てるか分かりませんが、それでも良ければ。」
「大丈夫大丈夫!晴人くんと一緒なら、きっと楽しくなるはず!」
「それならお付き合いしますよ。」
「ところで、晴人くんってヘッドホン派?イヤホン派?」
「ヘッドホン派ですね。音の広がりや臨場感が違いますから。」
「だよねー!私もヘッドホン派。イヤホンだと耳が痛くなっちゃうし、遮音性もイマイチだし。」
るるは足を組み直し、スニーカーの紐を軽く直しながら楽しそうに話を続けた。
「甘坂さんはパッド派ですか?それともキーマウ派ですか?」
「もちろんキーマウ派だよ!細かい操作ができるからね。でも、パッドも一応持ってるけどさ。」
「さすがですね。どちらにも対応できるのは器用だと思いますよ。」
「いやいや、晴人くんも練習すればすぐ慣れるって!一緒にやるの楽しみだなー!」
二人の会話は喫煙所を温かく包み込み、花びらがそっと開くように広がっていくようだった。
――駅前のゲームセンターの喫煙所には、今日も二人のたわいない話が弾んでいた。