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第20話:カードゲームやってますか?

 ーー三月の柔らかな日差しが街を包む午後、駅前のゲームセンターに併設された喫煙所では、霧島晴人が今日は珍しく、ペットボトルのお茶を握りしめている。

 ペットボトルの冷たさが手に心地よく、軽く汗ばむ手のひらを冷やしてくれた。

 扉が開き、落ち着いた足音と共に甘坂るるが現れた。るるはいつもと少し変わったスタイルだった。

 赤のニットセーターに黒のプリーツスカート、足元は黒いショートブーツを合わせている。

 ブーツが春の淡い光を受けてほのかに艶めき、彼女の明るい笑顔と対照的に大人びた印象を醸し出していた。

「晴人くん、こんにちはー!」

 彼女が小さく手を振りながら近づいてくると、霧島は軽く頷きながら答えた。

「……こんにちは、甘坂さん。」

「ねえねえ、晴人くんってカードゲームとかやったことある?」

 唐突な質問に、霧島は一瞬考え込んだ。

「カードゲーム……ですか。」

「そう!ポケカとか遊戯王とかさ。やってた?」

 るるは楽しそうに目を輝かせながら話を続けた。その仕草に、霧島は少しだけ微笑みながら答えた。

「昔、少しだけ遊戯王をやっていました。正直、そこまで深くはありませんでしたが。」

「へえー、じゃあエクシーズとかシンクロとか、分かる感じ?」

「……シンクロまでは何とか。ただ、その後はついていけなくなりました。」

 霧島が淡々と答えると、るるは「わかるわかる!」と元気よく頷いた。

「私も途中で追いきれなくなっちゃったけど、あの独特の雰囲気って今でも好きなんだよね。」

「独特の雰囲気?」

「うん。カードゲームショップの匂いとかさ。なんていうか、カードのインクの香りっていうか、あの独特な空気感。」

 るるは懐かしそうに目を細めながら煙草を取り出した。その指先はいつもより落ち着いていて、彼女自身がその記憶に浸っているようだった。

「晴人くん、最近のレアカードの値段とかって知ってる?」

「少しだけ。レアカードが高額で取引されるとか、そういう話は聞いたことがあります。」

「そうそう!あれってほんとにびっくりするよね。一枚で何十万円とか!」

 るるは大げさに両手を広げながら笑い、霧島もそれにつられて口元を緩めた。

「……確かに高額ですね。ただ、そこまで熱中する人たちの情熱には感心します。」

「そうだよね。でも私は、単純にデッキを組んで対戦するのが楽しかったなー。」

 彼女の声が少しだけ弾む。その楽しげな様子に、霧島は静かに耳を傾けていた。

「じゃあ、今はもうやってないんですか?」

「うん、たまに興味は湧くけど、今は見るだけかな。でも、晴人くんがやるなら、また始めてもいいかも!」

 その言葉に、霧島は少しだけ目を細めて答えた。

「……それは面白そうですね。ただ、甘坂さんには勝てる気がしません。」

「ふふん、そうだね!私、結構強いからね!」

 二人はふと顔を見合わせ、同時に笑みをこぼした。

 喫煙所には、軽やかに笑い声が響き、春の日差しの下で二人の会話は続いていた。

 ――駅前のゲームセンターの喫煙所には、今日も二人のたわいない話が軽やかに広がっていった。

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