――駅前のゲームセンターに併設された喫煙所。冬の寒さは少し和らぎ、早春の気配がわずかに漂う2月の午後。
冷たい風がまだ頬を撫でるが、どこか柔らかさを含んでいた。
街のざわめきが遠くに聞こえつつも、ここでは落ち着いた時間が流れていた。
霧島晴人は煙草をくわえ、静かに火をつけた。その仕草を眺めながら、甘坂るるが小さなため息をつきながら喫煙所に現れた。
「ねえ、さっきゲーセンの前で話してた人たちがさ、『パチンカス』って言ってたんだけど!」
「……パチンカス、ですか。」
「そう! ヤニカスもそうだけどさ、なんでもカスつけりゃいいってもんでもないでしょ?」
霧島は煙草を一服してから、淡々と答えた。
「じゃあ、僕はヤニカスでパチンカスですね。」
「えっ、晴人くんってパチンコやったことあるの?」
「……まあ、少しだけ。」
「教えてよ! ゲーセンのパチンコ筐体とかで遊んでみたい!」
霧島は少し考え込むような表情を浮かべながら頷いた。
「……わかりました。簡単な説明くらいなら。」
その後、二人は喫煙所を後にして、ゲームセンター内のパチンココーナーへ向かった。
「これがパチンコ筐体です。基本的には、このハンドルを回して玉を打ち出します。狙いは玉をうまく穴に入れること。」
「なるほどね。見た目は簡単そうだけど……コツとかあるの?」
「……狙いを定めるより、玉の流れを読むことが重要です。あとは運ゲーです。演出を楽しんでいればいいですよ。この液晶の青い玉が赤とか金になれば、かなり熱いです。」
「そっかー。じゃあ、それを待ってればいいんだね。」
「そうですね。少し前までは打ちながら煙草を吸えたので、もっと雰囲気を楽しめたんですが……。」
「打ちながら煙草? それ、なんか良さそう!」
「保留をぼーっと眺めながら吸うのが好きでしたよ。でも今は喫煙所が別に設置されているので、それができなくなったのが残念ですね。」
るるは少し考えるようにうなずきながら、霧島の説明に耳を傾けた。
「そっか、でもその分、プレイに集中できるようになったってことかな?」
「そういう見方もありますね。それでも、昔の雰囲気が恋しいこともあります。」
るるは納得したように笑みを浮かべ、筐体を指差した。
「ねえ、晴人くん、この張り紙にかいてあるスマパチってなに?」
「スマートパチンコですね。玉の投入とか排出がなくてデジタルで処理する仕組みです。このゲーセンの筐体も似たような仕組みですよ。メダルを入れたら内部で処理されますから。」
「へえー。なんか効率的だけど、昔……?のパチンコ屋さんみたいに玉がじゃらじゃら出てきて、箱に貯めるのってやっぱり楽しいよね?」
「確かに。それも一つの醍醐味ですね。」
るるは霧島の説明に頷きながら、横の筐体に視線を移した。
「スロットも教えて! 強チェとかってどういうこと?」
「スロットはパチンコより複雑です。目押しや技術介入が必要だったりで、プレイヤースキルが問われる部分があります。知識もある程度必要ですが、その分ゲーム性はありますね。」
「へえ、なんか奥深いね!」
「その分、時間を忘れてしまうこともありますので注意が必要です。」
るるは笑いながらハンドルを握り、霧島に尋ねた。
「晴人くん、次もまた教えてね! なんかちょっと詳しくなった気がする!」
「……わかりました。機会があれば。」
二人は並んでパチンコを楽しみながら、時折笑い声を上げていた。
――喫煙所から始まったたわいない話は、ゲームセンターのパチンココーナーで続き、二人の楽しい時間を作り出していた。