――駅前のゲームセンターに併設された喫煙所。
薄い雲に覆われた空から時折日差しが差し込み、地面に残った雪が微かに解けて水たまりを作り出している。
二人の時間は、変わらない静けさの中に流れていた。
霧島晴人は煙草を箱から取り出し、火を灯すと、じっくりと味わうように一服した。
その吐息と共に白い煙が空に消えていく。ふと立ち上る煙の軌跡を目で追いながら、冷たい風がその輪郭を乱していくのを感じた。
「お、今日は少し遅かったね?」
甘坂るるがコートの襟を直しながら喫煙所にやってきた。頬を赤らめた表情と明るい声が、冬の冷たい空気を少し和らげる。
「……甘坂さん、どうも。」
「ねえねえ、覚えてる? この前のゲーセンの店名の話!」
霧島は少し考え込んだ表情で煙草を口に運び、静かに答えた。
「……そういえば、そんな話ありましたね。」
「で、調べた?」
「いえ、忘れていました。」
「晴人くん、だめだなー! 私はちゃんと見てきたんだから。」
るるは得意げに胸を張り、煙草に火をつけると一服した。
「それで、なんだったんですか?」
「『5628』ってうっすら看板に書いてあったよ!」
「……数字ですか。」
「そう! 消えかかってたけど大きな文字で『5628』だけ。店名にしては変だよね?」
霧島は眉を少し上げながら首をかしげた。
「確かに。普通の店名には見えません。」
「でしょ? これ、どう読むと思う?」
「……そのまま『ごーろくにーはち』では?」
「それだと面白くないじゃん! もっとさ、『ごろにゃー』とか、可愛くない?」
「……『ごろにゃー』ですか。」
「そう! 猫っぽい感じで。」
霧島は思わず口元を緩める。
「甘坂さん、それはさすがに想像が過ぎます。」
「えー、でも面白いと思うんだけどなー。」
「まあ、結局なんて読むのかはわかりませんね。」
「そもそも、あれが店名かどうかも怪しいけどね。」
二人は顔を見合わせて、同時に小さく笑った。
「でもさ、私から言い出した事なんだけど、名前がわかったからなんなんだっていう……。」
「……確かに。」
「でしょ! でも、なんかこう気になること探したり調べたりするってさ、こうやって話のネタになるし、無駄ではないと思う。」
霧島は頷きながら、自分の煙草を灰皿に軽くひねって火を消した。
「そういうものかもしれません。」
「晴人くんも、たまにはもうちょっと気にしてみてよ。ほら、大発見があるかも!」
「……考えておきます。」
「そうそう、それでいいの!」
るるは笑顔を浮かべながら、最後の一服を吸い終えた。
――喫煙所には、数字の謎を残しながらも、二人のたわいない会話が今日も静かに流れていた。