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第16話:店名なんでした?

 ――駅前のゲームセンターに併設された喫煙所。

 薄い雲に覆われた空から時折日差しが差し込み、地面に残った雪が微かに解けて水たまりを作り出している。

 二人の時間は、変わらない静けさの中に流れていた。

 霧島晴人は煙草を箱から取り出し、火を灯すと、じっくりと味わうように一服した。

 その吐息と共に白い煙が空に消えていく。ふと立ち上る煙の軌跡を目で追いながら、冷たい風がその輪郭を乱していくのを感じた。

「お、今日は少し遅かったね?」

 甘坂るるがコートの襟を直しながら喫煙所にやってきた。頬を赤らめた表情と明るい声が、冬の冷たい空気を少し和らげる。

「……甘坂さん、どうも。」

「ねえねえ、覚えてる? この前のゲーセンの店名の話!」

 霧島は少し考え込んだ表情で煙草を口に運び、静かに答えた。

「……そういえば、そんな話ありましたね。」

「で、調べた?」

「いえ、忘れていました。」

「晴人くん、だめだなー! 私はちゃんと見てきたんだから。」

 るるは得意げに胸を張り、煙草に火をつけると一服した。

「それで、なんだったんですか?」

「『5628』ってうっすら看板に書いてあったよ!」

「……数字ですか。」

「そう! 消えかかってたけど大きな文字で『5628』だけ。店名にしては変だよね?」

 霧島は眉を少し上げながら首をかしげた。

「確かに。普通の店名には見えません。」

「でしょ? これ、どう読むと思う?」

「……そのまま『ごーろくにーはち』では?」

「それだと面白くないじゃん! もっとさ、『ごろにゃー』とか、可愛くない?」

「……『ごろにゃー』ですか。」

「そう! 猫っぽい感じで。」

 霧島は思わず口元を緩める。

「甘坂さん、それはさすがに想像が過ぎます。」

「えー、でも面白いと思うんだけどなー。」

「まあ、結局なんて読むのかはわかりませんね。」

「そもそも、あれが店名かどうかも怪しいけどね。」

 二人は顔を見合わせて、同時に小さく笑った。

「でもさ、私から言い出した事なんだけど、名前がわかったからなんなんだっていう……。」

「……確かに。」

「でしょ! でも、なんかこう気になること探したり調べたりするってさ、こうやって話のネタになるし、無駄ではないと思う。」

 霧島は頷きながら、自分の煙草を灰皿に軽くひねって火を消した。

「そういうものかもしれません。」

「晴人くんも、たまにはもうちょっと気にしてみてよ。ほら、大発見があるかも!」

「……考えておきます。」

「そうそう、それでいいの!」

 るるは笑顔を浮かべながら、最後の一服を吸い終えた。

 ――喫煙所には、数字の謎を残しながらも、二人のたわいない会話が今日も静かに流れていた。

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