――新年最初の喫煙所。年が明けても変わらない風景と時間が、静かに二人を迎え入れる。
街の遠くからは除夜の鐘が響いた名残のような静けさが漂い、いつもの日常がそこにあった。
霧島晴人は煙草の箱をポケットからゆっくりと取り出し、蓋を開けるとその中身を確かめるように一瞥し、扉を押し開けた。喫煙所にはいつもの姿があった。
「晴人くん、遅いよー。」
甘坂るるが煙草を片手に、軽く伸びをしながら振り返る。今日は厚手のニットにロングコートを羽織り、マフラーでしっかりと首元を覆っていた。
「……甘坂さん、こんにちは。」
「ラインでも言ったけど、……今年もよろしくね!晴人くん!」
「……今年もよろしくお願いします。」
るるは笑いながら煙草に火をつけ、一服した後、ふと思い出したように言った。
「ねえ、晴人くん。」
「……なんですか?」
「そういえばさ、私たちって名前は知ってるけど、歳とか知らなくない?」
霧島は煙草をくわえたまま少し考え込み、静かに答えた。
「……確かに、そうですね。」
「ね、気にならない?」
「気にしたことはありませんが……。」
「じゃあ、私から! 私、27。」
「……27歳。」
霧島は意外そうな顔もせず、淡々と呟いた。るるは少しだけ驚いた表情を浮かべた。
「え、なにその反応。意外とか言わないんだ。」
「見た目通りというか、なんとなくそのくらいな気がしていました。」
「ふーん。じゃあ、晴人くんは?」
「僕は23です。」
「23かー。私の方が年上だとは思ってたけど、やっぱりね!」
るるは満足げに頷きながら笑う。
「まあ、見た目通りって感じだよね。」
「……そうですか。」
「うん。晴人くんって、なんか若いけど落ち着いてるよね。もっと大学生っぽい感じかと思ってた。」
「……そういう時期もありましたが。」
「ふーん、晴人くんの学生時代とか気になるなー。」
「特に話すことはないですよ。」
「そんなこと言わないでさ、今度聞かせてよ!」
るるは煙を吐きながら、霧島の顔を覗き込む。
「でも、なんかすっきりした! 年齢知ると、ちょっと親近感湧くね。」
「……そうでしょうか。」
「だって、名前だけよりちょっと仲良くなった気がするじゃん。」
霧島は淡々と頷きながらも、どこか満足げな表情を見せた。
「まあ、これからもよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしく!」
るるは嬉しそうに笑いながら、最後の一服を吸い終え、煙草の先を灰皿の縁で静かにひねるようにして火を消した。
――新年最初の喫煙所には、二人のたわいない会話が冬の澄んだ空気に溶け込んでいた。