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第13話:もうお正月なんですか?

 ――駅前のゲームセンターに併設された喫煙所。

 冷たい冬の風が吹き抜け、足元の氷が細かな音を立てながら割れていく。

 街中では年末の喧騒が渦巻き、人々の足音が雪を踏みしめる音と共に消えていく。

 霧島晴人は煙草の箱を手に取りながら、扉を押し開けた。

「……寒い。」

 独り言のように呟き、喫煙所の隅で火を灯す。吸い込んだ煙を吐き出すと、白い息と混ざり合いながら、静かに消えていった。

 「いたっ!」

 乾いた音とともに、甘坂るるが喫煙所の扉を押し開けた。振り向いた霧島晴人の視界に飛び込んできたのは、指先を振りながら眉をしかめる彼女の姿だった。

「静電気、痛い! もう冬はこれだから嫌になるよねー。」

 コートの袖口を軽く叩きながら、るるは毛糸のマフラーを直す。その仕草に、微かに毛が逆立つような静電気の名残が見えた。

「……甘坂さん、こんにちは、相変わらず元気ですね。」

「そりゃね! 今年も冬の洗礼受けてるーって感じ!」

 乾燥した冬の空気に映える元気な笑顔が、冷え切った喫煙所に少しだけ温もりを加えていた。

「そういえば、晴人くん、もう年末だよね?」

「……そうですね、あっという間です。」

「こういう時期ってさ、なんか特別感あるよね。でも挨拶が『こんにちは』って味気なくない?」

「……どうすればいいんですか?」

「たとえばさ、『今年もお世話になりました』とか?」

 霧島は少し考え込んだ後、淡々と口を開いた。

「今年もお世話になりました。」

「いやいや、そんな棒読みで言われても!」

 るるはクスクスと笑いながら、自分の煙草を取り出して火をつけた。

「でもさ、晴人くん。今年、なんだかんだで楽しかったよね。」

「……そうですね。」

「そういえば、クリスマスも普通に過ぎていきましたね。」

 霧島がぽつりと呟く。

「そうだね! あっという間だったよね。」

「でも、サンタ姿の甘坂さんを見られたのは良かったですよ。」

「えっ、それ言う!? 忘れてって言ったでしょ!」

 るるは頬を赤らめて霧島をじっと睨む。

「すみません。でも似合っていたのは事実ですから。」

「もう……ほんと忘れてよね!」

 るるはふくれっ面をしながら煙を吐き出す。

「さて、もう年越しかー。今年はあっという間だった気がするな。」

「……確かに。」

「晴人くんはお正月、どうするの?」

「特に予定はありませんね。」

「そっかー。私は実家に帰るかも。地元の友達とも久々に会いたいし。」

「なるほど。」

 二人はしばらく無言で煙をくゆらせながら、年末の静けさに浸っていた。

 ――そして、大晦日。

 霧島はベッドに寝転びながら、スマホを手に取った。LINEの通知が1件。送り主はるるだった。

 甘坂るる:『晴人くん、大晦日だね! 何してるの?』

 霧島晴人:『特に何もしていません。甘坂さんは?』

 甘坂るる:『紅白見てる! 晴人くんは?』

 霧島晴人:『見てません。』

 甘坂るる:『つまんなーい!』

 霧島は少し笑いながら、返事を打ち込む。

 霧島晴人:『まあ、静かに過ごすのも悪くないですから。』

 甘坂るる:『そっか。じゃあ、年越しの瞬間もLINEで挨拶しよ!』

 霧島晴人:『了解しました。』

 ――そして、年越しの瞬間。

 甘坂るる:『あけおめー! 今年もよろしくね!』

 霧島晴人:『明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。』

 霧島はスマホを閉じながら、静かに息を吐いた。

 ――新年の騒がしさの中にも、どこか穏やかな時間が流れる。

 ――新しい年も、たわいない話が除夜の鐘のように静かに心に響き渡る予感がした。

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