――駅前のゲームセンターに併設された喫煙所。
冷たい冬の風が吹き抜け、足元の氷が細かな音を立てながら割れていく。
街中では年末の喧騒が渦巻き、人々の足音が雪を踏みしめる音と共に消えていく。
霧島晴人は煙草の箱を手に取りながら、扉を押し開けた。
「……寒い。」
独り言のように呟き、喫煙所の隅で火を灯す。吸い込んだ煙を吐き出すと、白い息と混ざり合いながら、静かに消えていった。
「いたっ!」
乾いた音とともに、甘坂るるが喫煙所の扉を押し開けた。振り向いた霧島晴人の視界に飛び込んできたのは、指先を振りながら眉をしかめる彼女の姿だった。
「静電気、痛い! もう冬はこれだから嫌になるよねー。」
コートの袖口を軽く叩きながら、るるは毛糸のマフラーを直す。その仕草に、微かに毛が逆立つような静電気の名残が見えた。
「……甘坂さん、こんにちは、相変わらず元気ですね。」
「そりゃね! 今年も冬の洗礼受けてるーって感じ!」
乾燥した冬の空気に映える元気な笑顔が、冷え切った喫煙所に少しだけ温もりを加えていた。
「そういえば、晴人くん、もう年末だよね?」
「……そうですね、あっという間です。」
「こういう時期ってさ、なんか特別感あるよね。でも挨拶が『こんにちは』って味気なくない?」
「……どうすればいいんですか?」
「たとえばさ、『今年もお世話になりました』とか?」
霧島は少し考え込んだ後、淡々と口を開いた。
「今年もお世話になりました。」
「いやいや、そんな棒読みで言われても!」
るるはクスクスと笑いながら、自分の煙草を取り出して火をつけた。
「でもさ、晴人くん。今年、なんだかんだで楽しかったよね。」
「……そうですね。」
「そういえば、クリスマスも普通に過ぎていきましたね。」
霧島がぽつりと呟く。
「そうだね! あっという間だったよね。」
「でも、サンタ姿の甘坂さんを見られたのは良かったですよ。」
「えっ、それ言う!? 忘れてって言ったでしょ!」
るるは頬を赤らめて霧島をじっと睨む。
「すみません。でも似合っていたのは事実ですから。」
「もう……ほんと忘れてよね!」
るるはふくれっ面をしながら煙を吐き出す。
「さて、もう年越しかー。今年はあっという間だった気がするな。」
「……確かに。」
「晴人くんはお正月、どうするの?」
「特に予定はありませんね。」
「そっかー。私は実家に帰るかも。地元の友達とも久々に会いたいし。」
「なるほど。」
二人はしばらく無言で煙をくゆらせながら、年末の静けさに浸っていた。
――そして、大晦日。
霧島はベッドに寝転びながら、スマホを手に取った。LINEの通知が1件。送り主はるるだった。
甘坂るる:『晴人くん、大晦日だね! 何してるの?』
霧島晴人:『特に何もしていません。甘坂さんは?』
甘坂るる:『紅白見てる! 晴人くんは?』
霧島晴人:『見てません。』
甘坂るる:『つまんなーい!』
霧島は少し笑いながら、返事を打ち込む。
霧島晴人:『まあ、静かに過ごすのも悪くないですから。』
甘坂るる:『そっか。じゃあ、年越しの瞬間もLINEで挨拶しよ!』
霧島晴人:『了解しました。』
――そして、年越しの瞬間。
甘坂るる:『あけおめー! 今年もよろしくね!』
霧島晴人:『明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。』
霧島はスマホを閉じながら、静かに息を吐いた。
――新年の騒がしさの中にも、どこか穏やかな時間が流れる。
――新しい年も、たわいない話が除夜の鐘のように静かに心に響き渡る予感がした。