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第12話:コスプレってどうですか?

 ――クリスマスが近づいた駅前のゲームセンターに併設された喫煙所。

 街灯が雪を優しく照らし、その光は小さな結晶を宝石のように輝かせている。

 冷たい空気が吐く息を白く染め、静かな夜にクリスマスソングが微かに響いていた。

 霧島晴人は煙草の箱をポケットに入れながら、扉を押し開けた。

「……ん?」

 喫煙所には見慣れない姿があった。灰皿の前で煙草を手にしているのは、赤いサンタ帽に黒いタイツ、そして短めのスカート――。

 いや、これは……。

「……サンタクロース?」

 独り言のように呟くと、赤いジャンパーを羽織ったその女性が振り返った。

 髪はストレートに下ろされ、サンタ帽が軽く揺れている。口元には煙草があり、ふっと吐き出された煙が冬の空気に紛れていった。

「……ねえ、晴人くん? あんま見ないでよね。」

「……甘坂さん?」

 聞き慣れた声に霧島は一瞬固まり、目を細めて彼女を見た。

「だから、見ないでってば! 恥ずかしいんだから!」

「いえ、見ない方が無理がありますよ……。それ、どうしたんですか?」

「これ? サンタの格好だよ。」

「……はい。なんで、そんな格好を?」

 霧島の冷静な問いに、るるは頬を赤らめながら視線を逸らした。

「ケーキ屋さんのバイト! 今休憩中なの。友達に頼まれてさ、一緒にやってって。」

「……ケーキ屋のバイト。」

「そう! クリスマスシーズン限定だけどね。」

 霧島は少しだけ苦笑しながら、彼女の格好をもう一度眺めた。

「……よく引き受けましたね。」

「だって断りづらかったんだもん! でも、なんか面白そうだったしさ。」

「面白そう……ですか。」

「だって、こういうの一回やってみたくならない? 普段できないことだし!」

「なるほど……。」

 霧島は軽く息を吐きながら煙草に火をつけた。白い煙がゆっくりと立ち上る。

「でもさ、この格好で喫煙所にいるのって、さすがに変かな?」

「……少し目立ちますね。」

「やっぱり? でもさ、足が寒すぎて死にそうなんだけど!」

 るるは小刻みに震えながら、軽くジャンプをして体を温めようとしている。その様子に霧島は小さく笑った。

「だから大きなジャンパー着てるけど、スカートは短いままですからね。」

「うるさいなー! この格好でどうしろっていうの!」

「……似合っていると思いますが。」

「なっ……!」

 るるは顔をさらに赤くして霧島を指差した。

「絶対バカにしてる! 晴人くん、今笑ったでしょ!」

「笑ってません。本当に似合ってますよ。」

「絶対嘘だ! もう、こんなの絶対似合わないって自分でも思ってるし!」

「そんなことはないと思いますが……。」

 霧島は淡々と煙を吐き出しながら答えた。

「……それにしても、こんな頼み、よく聞きますね。」

「そういうとこ、私優しいでしょ?」

「……どうでしょう。」

「ちょっと! 晴人くん、そこは褒めるとこでしょ!」

 るるは頬を膨らませながら煙草を灰皿に押し付けた。

「ねえ、感想は?」

「……感想ですか?」

「そう! はっきり言ってよ!」

 霧島は少し考えた後、静かに口を開いた。

「さっきも言いましたけど、似合ってますよ。人の話聞いてる余裕もないんですか?」

「……は?」

「だから……普通に似合っています。可愛いですよ。」

 るるは耳まで真っ赤にしながら、霧島を横目で見た。

「な、なんかそう言われると恥ずかしいんだけど……。」

「自分から聞いたんじゃないですか。」

「だって、そんな率直に言うと思わないじゃん!」

 るるはぷいっと顔を背けながら、小さくため息をついた。

「……まあいいや。次会う時はいつもの私だから。」

「そうですか。」

「でも今日のことは、忘れてくれる?」

「……善処します。」

「なにそれ!」

 るるは呆れたように笑いながら、霧島を軽く小突いた。

「じゃあ、戻るね。これ以上休憩したら怒られそうだし!」

「お疲れ様です。」

「ほんと、忘れるんだよ! 晴人くん!」

 るるはそう言いながら喫煙所を後にした。

 ――クリスマス前の喫煙所には、サンタ姿の笑顔と白い息が交わり、たわいない話がふわりと雪のように積もっていた。

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