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第7話:禁煙ブームってなんですか?

 ――駅前のゲームセンターに併設された喫煙所。そこは時代の流れとは少しズレた、愛煙家たちの静かなオアシスだった。

 霧島晴人はいつものように煙草に火をつけ、ゆっくりと煙を吐き出す。

「……ふう。」

 その穏やかな時間を崩すように、元気な声が響いた。

「晴人くん! やっぱりここにいる!」

「……甘坂さん。」

 いつもの軽い足音とともに、金髪ツインテールが顔をのぞかせる。手にはキャスターの箱。彼女もまた、このオアシスの常連だ。

「最近さ、禁煙ブームだのなんだの言われすぎじゃない?」

「……禁煙ブーム?」

 霧島は少し眉をひそめて、るるを見つめる。

「そう! どこ行っても『禁煙!』とか『電子タバコにしなさい』とか言われてさ。」

 るるは頬を膨らませながら、煙草に火をつけた。

「なんか、吸ってるだけで悪者みたいじゃない? こっちは好きで吸ってるだけなのにさ。」

「まあ、時代の流れですからね……。健康志向の人が増えたんでしょう。」

「そういう問題じゃないんだよ!」

 るるは勢いよく煙を吐き出すと、ジトッとした目で霧島を見つめた。

「晴人くん、禁煙とか考えたことある?」

「僕ですか?」

 霧島は少し考えた後、首を横に振る。

「……ありませんね。」

「だよねー! 絶対そんなタイプじゃないと思った。」

「まあ……僕にとって煙草は、一息つくためのものですから。」

「それそれ! 休憩のお供だよね! なんでみんなそれをわかってくれないんだろ。」

 るるはぶつぶつと文句を言いながら、霧島の隣に立つ。そして少しだけ真剣な表情で続けた。

「でもさ、禁煙エリアとか増えすぎて、肩身狭くない? この喫煙所だって、今じゃ数少ない場所だし。」

「……確かにそうですね。」

 霧島はゆっくりと煙を吐き出しながら、辺りを見回す。

「昔はもっと気軽に吸えた場所も多かったんですけどね。」

「でしょ? それが今じゃ、吸ってるだけで白い目で見られるんだから。なんか悲しいよね。」

「時代の変化です。でも、好きなものを我慢する必要はないんじゃないですか?」

「晴人くん……なんか今日かっこいいこと言うね。」

「そうですか?」

 霧島は少しだけ目をそらして、煙草の灰を灰皿に落とした。

「まあ……無理に辞める必要はないと思いますよ。誰にも迷惑をかけていなければ。」

「そうそう! 私たちは愛煙家なんだから!」

 るるは嬉しそうに笑いながら、もう一度煙を吐き出す。

「でも、禁煙ブームとか言うならさ、もっとちゃんと愛煙家の居場所を作ってほしいよね。」

「確かに。それなら僕も文句は言いません。」

 二人はしばらく黙って煙草をくゆらせる。喫煙所の空気は、いつものようにゆっくりと流れていた。

「ねえ、晴人くん。」

「なんですか?」

「もしさ、喫煙所がなくなったらどうする?」

「……そうですね。」

 霧島は少し考え込む。

「その時は、どこか静かな場所を探すだけです。」

「ふふっ、晴人くんらしい答え。」

 るるはくすくす笑いながら、最後のひと吸いを終えると煙草を灰皿に押し付けた。

「じゃあ、私も晴人くんの隣にいればいいかな。」

「……どういう意味ですか?」

「深い意味はないけど、愛煙家仲間としてね。」

 るるは笑顔で言うと、軽く手を振った。

「さ、今日はもう一勝負しに行こうかな! ゲーセンで待ってるからね!」

「……はい、後で行きます。」

 霧島は淡々と答えながらも、少しだけ微笑んだ。

 ――時代に取り残された場所かもしれない。それでも、二人にとっては心地のよいたわいない時間が、そこには確かに存在していた。

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