――夏の終わりを告げる風が駅前を吹き抜ける。
ゲームセンターに併設された喫煙所には、蝉の声が遠く響く中、秋の気配がほんのりと混じっていた。
霧島晴人は、煙草の火をつけながら、少しだけ空を見上げる。
太陽はまだ強いが、その光にどこか柔らかさが混じっている。彼は煙草を指先で軽く弾き、ゆっくりと煙を吐き出した。
その静かな時間を破るように、いつもの明るい声が背後から響く。
「晴人くん! 今日もここで吸ってるんだ?」
振り向くと、軽やかな足音とともに甘坂るるが現れた。今日はいつもより低い位置でまとめられたツインテールに、ラフなTシャツ、ショートパンツという軽快な装いだ。
「……甘坂さん、こんにちは。」
「ねえ、聞いてよ!」
るるは勢いよく霧島の隣に座り込み、腕を組みながら少し不機嫌そうな顔をする。
「どうしました?」
「『ヤニカス』って言われたの! ひどくない?」
「ヤニカス……ですか?」
霧島は少し眉をひそめた。その単語に馴染みがなく、彼は言葉の意味を頭の中で考えた。
「そう! 電車で煙草臭いって顔されたと思ったら、友達にも『ヤニカスくせー』とか言われてさ!」
「……なかなか辛辣ですね。」
「ほんとだよ! なんで煙草吸ってるだけでそんな言われ方しなきゃいけないの!?」
るるは頬を膨らませて憤慨するが、その姿がどこか無邪気で、霧島は小さく笑ってしまう。
「まあ、時代が時代ですからね。喫煙者には厳しい世の中です。」
「そう! でも私は違うんだから! 愛煙家って呼んでほしい!」
「愛煙家……ですか。」
「そう! なんか素敵じゃない? ヤニカスよりずっと良いし!」
「まあ、確かに言い方ひとつで印象は変わりますね。」
るるは煙草に火をつけながら、満足げに頷いた。
「でしょ? 晴人くんも今日から愛煙家だよ!」
「……別に僕は呼び方にこだわりはないですけど。」
「だめ! ちゃんと愛煙家って胸を張らなきゃ!」
「胸を張る……ですか。」
霧島は少し考え込みながら、煙を吐き出した。るるはその様子を見ながら、ふっと小さく笑った。
「晴人くんって、たまに真剣に考えすぎだよね。」
「そうですか?」
「うん。でも、そういうところも嫌いじゃないけどね。」
るるは笑顔を見せ、再び煙草を吸い込む。
「でもさ、時代に追いやられてるって感じするよね。喫煙者って肩身狭いなーって。」
「そうですね。でも……まあ、好きなものは好きでいいんじゃないですか。」
「……晴人くん、たまにはいいこと言うじゃん!」
霧島は少しだけ照れたように視線を逸らしたが、言葉には出さずに煙草を灰皿に押し付けた。
二人はしばらく無言で過ごしながら、喫煙所に漂う匂いと共にゆったりとした時間を楽しんでいた。
――夏の終わりの喫煙所には、遠くで揺れる蝉の声と、二人の軽やかでたわいない話が静かに響いていた。