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霧島さんと甘坂さんのたわいない話
霧島さんと甘坂さんのたわいない話
逢追ききり
現実世界ラブコメ
2024年12月26日
公開日
8.3万字
連載中
――駅前のゲームセンターに併設された喫煙所。静かに煙草をくゆらせる霧島晴人と、明るく元気な甘坂るるが、日々交わすたわいない会話。どこにでもありそうな日常の風景が、二人だけの特別な時間に変わる。ゲーム、煙草、時折の笑い声――この喫煙所では、何気ないやり取りがいつも少しだけ心に残る。

第1話:ここ喫煙所ですか?

 ――その日、霧島晴人はいつものように駅前のゲームセンターに足を運んでいた。

 空は厚い雲に覆われ、しとしとと降り続ける雨が街を包んでいる。

 路面に映る街灯の光が水たまりを輝かせ、湿った空気が彼の髪に少しまとわりつく。

 手には缶コーヒーが握られ、淡々とした表情で慣れた足取りを見せる。

 ゲーセンの入り口を横目に、彼はそのまま喫煙所の扉を押し開けた。

「……ふぅ。」

 扉の向こうに広がるのは、静まり返った無人の空間。

 雨音が遠くから聞こえ、ゲームセンターの賑やかな喧騒が、ここではまるで別世界のように感じられる。霧島は煙草の箱を取り出し、灰皿をじっと見つめる。

「……今日も、誰もいないのか。」

 呟きながら、手早く煙草に火を灯す。ライターの小さな炎が彼の手元を一瞬だけ照らし、煙がふわりと立ち上る。

 ひんやりとした空気が肌を撫で、吐き出した煙が雨の匂いに混ざりながらゆっくりと消えていく。

「一人は落ち着くんだけど、ゲーセンとの温度差が……。」

 霧島は灰皿に目をやりながら、小さくため息をつく。賑やかさと静けさが交錯するこの場所は、彼にとって妙に居心地の良い場所でもあった。

 その静寂を破るように、控えめだけれど明るい声が背後から響いた。

「あ、よかった。ここ喫煙所で合ってますよね?」

 驚いて顔を上げると、金髪のツインテールを揺らした女性が立っていた。タイトな黒いジャケットにジーンズ姿――服装は大人びているのに、その童顔とツインテールはどこか幼く見える。

「ええ……合ってますよ。」

 霧島は少し驚きながらも丁寧に答える。彼女は安心したように微笑み、煙草の箱を取り出した。

「助かったー。ここ駅近だし、見つけられて良かった。」

「……初めてですか?」

「うん、最近引っ越してきたから。これからお世話になるかも。」

 彼女はにっこり笑い、手際よく煙草に火をつけた。立ち上る煙の中で、彼女の顔にはどこか楽しそうな雰囲気が漂っている。

「あなたは、よく来るんですか?」

「……まあ、時間がある時は。」

「そっか。じゃあ、常連さんだ。」

 どこか親しげな彼女の言葉に、霧島は少し戸惑いながらも軽く頷いた。

「えっと……初めまして、ですよね?」

「あ、そうだね。私、甘坂るる。るるでいいよ。」

「霧島晴人です。よろしくお願いします。」

「晴人くんかー。なんだか真面目そうだね。」

 霧島は少し目を伏せて、「そうでしょうか」とぼそりと答える。るるは軽く笑いながら煙を吐いた。

「ね、晴人くんって何吸ってるの?」

「マルボロのメンソールです。」

「へえ、男の人ってメンソール好きだよねー。私はキャスターのマイルド。甘いのが好きなんだ。」

「……なるほど。」

 淡々と返事をする霧島を見て、るるはクスッと笑う。

「真面目だね、晴人くん。でも、こうやって話せる人がいると助かるな。」

「助かる、ですか?」

「うん。一人だと、なんか気まずいでしょ? だから、君みたいに普通に吸ってる人がいてくれると、安心するんだよね。」

 彼女の言葉に、霧島は静かに煙を吐きながら小さく頷いた。

「……まあ、僕も一人で吸うよりは、誰かいた方がいいかもしれませんね。」

「でしょ?」

 るるは満足げに笑い、最後の一口を吸い終えて煙草を灰皿に押しつけた。

「じゃ、またここで会ったらよろしくね。」

「……はい。こちらこそ。」

 ――こうして、駅前のゲームセンターの喫煙所で、霧島と甘坂の「たわいない話」が静かに始まった。

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