雪がふる、寒い寒い夜のこと。
いつもは早寝の女の子が、今日は朝まで起きると言いはります。
「お母さん、あたし今日はぜったいサンタさんに会うんだから」
お母さんは、ニコニコしながら、あたたかいココアをいれてあげました。
初めは意気込んでた彼女も、あたたまったからだが徐々に夢の中へと落ちていき……やがて完全に眠りについてしまいました。
「あれ……?あたし……寝ちゃったの……?」
女の子は目を覚まします。
目の前には、一面の雪景色。
でもふしぎと寒くはありませんでした。
「え、どうして?あたしお外で寝ちゃってた?」
誰もいない不安におそわれ、女の子は走り出します。
「お母さん、お父さん!どこなの?どこにいるの!?」
ドンッ!
突然目の前の大きななにかにぶつかります。
「あいたた……」
目を開くとそこには、真っ白なクマが立っていました。
「やあ、こんばんは。キミは人間の女の子だね」
「クマが喋ってる!?」
思わずおどろいてさけんでしまいました。
「はは、おどろいたかい。クリスマスの夜には、どうぶつたちはしゃべり出すのさ」
「なんでなんで?!」
「そりゃあキミ、サンタのおじさんのお手伝いをするためさ。みんなで声をかけあって、あっちこっちにプレゼントをくばるのさ」
「わぁ……ねぇねぇ!もしよかったら、あたしにも手伝わせて!」
「もちろんさ!キミが手伝ってくれるのなら僕たちもうれしいよ!」
女の子は、雪原をクマと一緒に歩いていきました。
「ほぉら、みんなだよ」
そこには、たくさんの森のどうぶつたちがいました。
そしてそのどうぶつたちの一番後ろには……。
「あ!トナカイさんと……それから……サンタのおじさん!」
「ほほ……キミが話にあった人間の女の子か。ようこそ、クリスマスの森へ」
「あの……本当にプレゼントをくばってるの?」
「そうとも!どうだね、キミも?」
「お願いします!」
「さあさあ、プレゼントをくばっていくよ〜」
ソリは家のえんとつの上で止まり、サンタのおじさんはそのえんとつに入っていきます。
ぽってりとした体型なのに、するりとえんとつを抜け、帰ってきた時にも、真っ黒なお顔になってはいませんでした。
「ほんとうのサンタのおじさんって、すごいのね!」
「そうだとも!あの歌はマヌケに言い過ぎだよっ!」
たくさんの家にプレゼントをくばっていき、次はいよいよ女の子の家です。
「ねぇ、サンタのおじさん。ここはあたしのお家なの。ね、あたしも行っていい?」
サンタのおじさんはいっしゅん、ひどくおどろいたような顔をしました。
「……いや、キミはここで待っていなさい」
「どうして?あたしは行っちゃダメなの?」
「どうしてもだ。さ、行ってくるよ」
サンタのおじさんは、ひらりとソリを降りると、えんとつの中に消えていきました。
それからサンタのおじさんは、しばらく帰ってきませんでした。
「さ、終わりだよ」
サンタのおじさんが帰ってきました。
「プレゼント、楽しみにしておきなさい」
サンタのおじさんがそう言ったかと思うと、女の子はまた強い眠気におそわれ、眠ってしまいました。
「サンタのおじさん!」
女の子が叫んだと思うと、そこはベッドの上でした。
「あれ?あたし……夢……?」
自分の部屋から出て、クリスマスツリーの下を見てみました。
するとそこには、大きな箱がありました。
箱にはリボンがつけられていて、手紙がそばにおいてありました。
『メリークリスマス、ゆきちゃん !パパ・ママより』
と書いてありました。
中身はかわいらしいクマのぬいぐるみ。
夢の中で出会ったあのクマさんに似ています。
「お母さん!お父さん!ありがとう!」
女の子は急いで二人のところへいきました。
「メリークリスマス!」
かぞくみんなでお祝いしました。
女の子は1つ、あることに気がつきます。
「なんだかあたし、とっても寒いわ……」
女の子はガタガタと震えだします。
抱きしめていたクマのぬいぐるみも、氷のように冷たくなり、ビーズのひとみから涙があふれてきています。
「お母さん、お父さん、なんだかあたし、おかしいみたい……」
しかしお母さんもお父さんも、はりついたような笑顔のままじっとあたしのことを見つめるだけでした。
「お母さん……お父さん……なんで……?」
だんだん目の前が暗くなっていきます。
その時、だんろからサンタのおじさんが出てきました。
「ゆきちゃん!」
「サンタのおじさん!」
お母さんとお父さんはなんだか少し悲しそうな顔をして消えてしまいました。
「おじさん!お母さんたちが!」
「ゆきちゃん、あれはキミのパパじゃないんだよ。これは悪い夢なんだ。いいね」
そう言うとサンタのおじさんは女の子をぎゅっと抱きしめました。
「あったかい……」
女の子はやわらかな光に包まれました。
「さぁ、ほんとうのパパとママのもとへおかえり……」
やわらかな光が部屋いっぱいに広がっていきます。
ふと窓の外になにかがいるのが目に入りました。
「あれは……トナカイさんのソリと……あたし……!?」
そのしゅんかん女の子はまた眠ってしまいました。
女の子が目を覚ますと、そこはお家のベットの上ではありませんでした。
「あれ?ここは……どこ……?」
真っ白い部屋。
あの雪景色のように真っ白い部屋。
「目が覚めたのかい?ゆきちゃん!」
部屋の外からお父さんが入ってきました。
「お父さん!ここは……?」
「ごめんね、ゆきちゃん。僕がもっとちゃんとキミを見ていれば……」
お母さんも入ってきて言います。
「あのね、はしゃぎすぎてあなた、転んでつくえに頭をぶつけてしまったの……それからずっと意識がなくて……ほんとにごめんね……」
「そうだったの……あたし……そんなことに……」
「でももう大丈夫だって!さあ、お家に帰ってクリスマスの続きをしよう!サンタさんがプレゼントを用意してくれたよ!」
女の子たちは家に帰ります。
クリスマスツリーの下には、あの大きな箱ともうひとつ、小さな箱がありました。
「あ、お父さん、これ、クマのぬいぐるみでしょ?あたし知ってるんだ〜!」
「えっ……?あ、あはは、開けてみなきゃわかんないだろ〜!」
中身はやっぱりクマのぬいぐるみです。
「じゃあもうひとつの箱は何かな〜?」
箱を開けようとする女の子のうしろでお母さんたちが話しています。
「……ねぇあなた、あんな箱あったかしら?」
「……お前が置いたんじゃないのか?」
お母さんたちは首をかしげます。
「あー!サンタのおじさんからだー!」
『メリークリスマス!お手伝いありがとう!』
それは確かに夢の中のサンタのおじさんからの手紙でした。
箱の中身は小さなベルでした。
箱の中にも1枚の手紙が入っていました。
『このベルは必ずキミを守ってくれるよ。これだけだってがっかりしたかい?でもほんとうのプレゼントは、実はもう渡してあるんだ、ごめんね。キミがこれからも幸せでありますように。メリークリスマス』
サンタのおじさんは、ふしぎなチカラで女の子を守ってくれたのです。
でも女の子は、なんのことだかわかりませんでした。
寒い寒い雪のふるクリスマスの夜には、サンタのおじさんがあなたのもとへやってきて、すてきなキセキを贈ってくれるかもしれません。
おしまい