翌日、完成した柄に着色する。うちにある素材だと茶か緑になる。一応赤もあるのだが、試しにイラストに着色したものを見せたら、
「びみょう」
と、サーミャに凄い顔で言われたので、赤は断念である。けっこう格好いいのにな……。
そんなわけで、うちにはクルルがいるし、モチーフである彼女の緑に最終的に決まった。
元々それが良いだろうとは思っていたが、俺が作ったことは帝国にもそれとなく教えるらしい(最近噂の鍛冶屋がいて、とかそんなレベルでも皇帝や近しい人は察するだろう)し、〝黒の森〟から出てきたものとしては緑のほうが相応しいという判断もある。
着色については、リディの力も借りることにした。彼女は最近、身の回りのものを染色していたりする。
マリウスのとこの守り刀を作る前はそうでもなかったのだが、あの時に火がついたらしく、あれくらいからちょこちょこ狩りに行く度に染料に使える植物を採取していたし、春になってから畑の隅に種を蒔いていたりする。
つまり、染色に関してはリディに一日の長があるということだ。俺やリケは基本的に色をつけることはないからな……保護用の油脂で色が変わることがあるが、それはその色にしようと思ってしているわけではないし。
「クルルちゃんそのものの色ですか?」
一口に緑と言っても、深い緑から明るい緑まで色々な緑がある。その中でどの緑を選ぶか、という話になれば、それは勿論クルルの緑だろう。
その色が再現できそうかリディに聞いてみた。彼女は小首を傾げている。
「柄の地色は……」
そう言ったリディに俺は柄を見せた。色をつけることを考えて、樹鹿の角も多少白めのものを選んでいる。発色はそんなに悪くないはずだ。それでもどうしても黒っぽいところもある。リディ曰くは魔力の影響があるらしい。
「いけると思います」
しばらくじっと見て考えていたリディはそう言って微笑んだ。俺とリケは小さくハイタッチをする。これで完成までの道筋が出来た。
色が決まるやいなや、リディは倉庫へ向かった。俺とリケが慌てて後を追いかける。倉庫に入るなり、リディは棚に並んだ草や木の皮を選んでいく。
「ええと、これとこれと……」
俺とリケはその様子を見ながら、選んだ素材を受け取っていく。彼女が何を選んだのかを覚えて、今後に活かすのも込みでだ。
いかにチートの手助けがあっても、こういった組み合わせはポンと出てくるものではない。
特に鍛治とは違って生産の方が強く働くこともあるし、腕前としては並の職人よりも上、というところなのだから。
チャンスがあれば学んでいきたいのは俺もリケと同じ気持ちだ。
だが、鼻歌を歌いながら棚を色々とあさっていくリディを、どれほど凝るつもりなのだろうかと、少し心配になりながら俺は見守るのだった。