ゆっくりと自分のナイフで形を作ったそれは、持ちにくさはあるものの、竜の一部を切り取ってきたかのような佇まいをしていた。
「形はこれでよし、と。あとは色か」
俺が掲げるように持ち上げると、リケが言った。
「見せていただいても?」
「もちろん」
リケができた柄――見た目には1つ爪の欠けたドラゴンの手のようにも見える――をためつすがめつ、木目の一筋も見逃すまいとするかのように見る。
「本来」
鍛冶場に差し込む夕日にそれをかざし、逆光に目を細めながらリケが言った。
「こういったものは分業でやります。柄は柄を専門とする職人が。それはドワーフでも変わりません」
リケは夕日から目をそらす。
「勿論ナイフやショートソードに革を巻くくらいであれば普通にこなしますが、ここまでとなると……」
そらした目が俺をとらえた。
「親方の域に達するのに一言で片付けるには足りないものが多すぎますね」
その目にはどことなく寂しさが含まれているように感じる。俺はそれに気づかないふりをして、肩をすくめた。
「気がついたらできるようになってた、としか言えないな」
嘘ではない。俺が何するともなく身についてしまった能力で、字義通りに
俺が言うと、リケは頷いた。
「ずっと見ていると親方の作業は一貫性があるようでいて、実際のところは完全に感覚でやっているのがなんとなく分かります」
「分かるか」
「分かるようになってきた、というのが正しいかもですね。以前なら何が何だか、でしたから」
苦笑するリケ。俺が何をできたわけでもないが、弟子が成長を実感してくれているのは素直に嬉しいな。
「お、どうしたどうした?」
一足早く片付けを終えたらしいサーミャが俺とリケの様子を見て話しかけてきた。
「リケが成長してるなって話だよ」
「ああ」
「えっ」
俺の言葉に、サーミャは納得して頷き、それを見てリケは驚きの表情をする。
「いや、アタシはずっと見てたから知ってるけど、ここに来た頃より格段に上手になってると思うぞ」
それが分かるようになったサーミャも鍛冶仕事の腕が上がってると思うのだが、あまりそこに言及するのも良くなさそうな気がして、俺はうんうんと頷くに留めておく。
「えへへ、なんだか照れますね」
「もうそんじょそこらの鍛冶屋じゃまったく太刀打ちできないだろうし、胸張って良いと思うぞ」
そもそもドワーフは他種族の鍛冶屋と比して平均的な腕前が上……らしい。そんなドワーフが弟子入りを希望するからこそ、ドワーフの弟子がいる鍛冶屋は名誉であるとされるのだが。
そして、ドワーフの風習として……。
「いつ戻っても大丈夫なくらいに、とは言わないが」
「言ってるじゃないですか」
腕が上達すると親元の工房に一旦戻るのだ。そして、弟子入りした先で学んだことを伝えたら、その先は自由らしい。そのまま親元の工房に留まるなり、自分の工房を起こすなり、弟子入り先に戻るなりするのだと言う。
それをしても問題ないくらいには彼女の腕は上がっている。
リケの苦笑に、俺は「すまんすまん」と笑いながら返す。でも、実際にそうなったら、とんでもなく寂しいと思うのだろうな。
「まぁ、まだまだいいだろ!」
サーミャがそう言ってリケの肩をバンバンと叩く。リケは、
「もう、痛いってば! でも……そうね」
そう、笑って言った。