形の方向性は定まったが、ああでもないこうでもないとデザインを繰り返し、最終的な形が決まったのは昼食前の事だった。
「ふむ」
手早く用意した昼食(朝飯にちょっと具を足しただけのものだが)を食べながら、決まったデザインが描かれた紙を眺める。
「行儀が悪い」
とディアナに窘められるが、余裕があるわけでもないので午後からの作業に備えたいし、昼飯を作ったのは俺なのでちょっとお目こぼしをいただきたい。
ちゃんと食べる前の挨拶もしたし。
そんなようなことを言うと、返事は小さめのため息だった。とりあえずは見逃されたと思うことにして、どこをどう加工すれば良さそうかを見積もっていく。
柄の材質は木製……ではなく、うちには珍しく鹿の角を使うことにした。立派な樹鹿の角の在庫が豊富なのだ。それなりの数とれるわりに、使う量が少ないからな。
樹鹿の角は名前の通り、樹木の枝葉のようになっている。枝の部分は普通の鹿やトナカイと同じく骨と同じような感じで、葉の部分は観察してみると皮膚と毛が変化したもののようだ。
季節によって少しずつ葉の感じ……つまりは剥がれたりしてきた皮膚や毛が状態変化することで、大体周囲と似た感じになるらしい。
春が来る前に角が抜けて生え替わるのも鹿やトナカイと同じで、雪解けの下生えに枝に混じって樹鹿の角が落ちていることもよくあるのだ、とサーミャが言っていた。
樹鹿の角の表面は、「鹿の角」と言われて思い浮かべるような、縦に筋が入った感じではない。
樹鹿の名前の通り、松のような樹木の表皮にも見える感じになっている。それがちょうど、ドラゴンの皮膚にも見えるので、これを使うことにしたのだ。
ちなみにクルルの皮膚はもう少しだけキメが細かい。まぁ、今回は迫力があった方が良いし、滑り止めとしては荒いほうが都合が良いのでなるべくこのままを活かす方向でなんとかするつもりだ。
「ここをこうかな……」
頭の中で加工をしてみる。実際にやってみないことには、チートの手助けありと言えども感覚を掴むことは難しい。
それでもこうしてある程度の目星をつけていたほうが、作業に入ったときにスムーズだし、大きな声では言えないが、こうしている時間は楽しいものなのだ。たとえ行儀が悪いと怒られようとも。
いくつかのため息をよそに、昼食を終えた俺は鍛冶場に向かい、早速立派な角を自分のナイフで削る。
木材とも、純粋な骨(猪や鹿の肉を調理するときに時折伝わってくることがある)の感触とも違うものが手を伝い、チートの手助けがどこをどう削っていけば自分の思うような形状になっていくのかを教えてくれている。
ある程度の形になったところで、既に出来上がっている刃と合わせてみる。
まだいまいちしっくりきてはいない。だが、続ければ上手くいきそうだと、そんな確信を抱く。
しかし、いずれ竜の爪になるものの一部が鹿の角とは、なんというか少し皮肉な感じもするな。
そんなくだらないことを考えつつ完成時の姿を思い浮かべながら、俺は更に手を動かしていった。