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竜の爪

 ドラゴンをモチーフにする、ということが決まってから寝付く前や起きてからも「どう意匠に取り入れるか」がぼんやりと俺の頭を占拠していた。


 なんせ「どこをとっても絵になる」わけで、全身は言うにおよばず、爪や尻尾、あるいは頭部もなかなかだし、鱗をかたどるのも映える。

 今回は刃物の柄にするモチーフだが、やりようでいかんともできる。できるからこそ悩みが尽きないとこともあるか。


「うーん」


 それは朝飯の時から作業を開始する時までずっと続いた。その間、家族たちはどうしていたかというと……。


「いつになく難しい顔だったから声をかけそびれた」


 そうである。ちなみに言ったのはディアナで、他のみんなは大きく頷いていた。


 いつまでも悩んでいても解決はしない。昨日やったようにいくつかラフスケッチを描いて、出来上がっている刃に合わせてみる。

 大本のモデルは勿論クルルだ。彼女の足や手(前脚?)、頭に尻尾、鱗の感じや全身を刃物の柄として成り立つようなデザインにしたイラストだ。

 刃物の柄、ということで多少の融通をきかせてくれたためか、生産のチートでそれなりの見映えにはなっている。どうも実用の方を優先しすぎるきらいはあるが。


 とはいっても、さすがに全身や頭は持ち手と言うにはなんというか……こう……。


「土産屋感が凄いな……」

「ミヤゲヤ?」

「いや、こっちの話」


 サーミャが首を傾げて、俺は手をひらひら振った。

 頭と全身をモチーフとしたものは、あの中二病感溢れる魔剣ぽいキーホルダーみたいな雰囲気が放たれている。

 刃と合わせれば意外といけるかもと思ったが、直刃の剣ではなく、曲線を描いたナイフの刃ではいまいち合わなかったようだ。


「とりあえず、尻尾……もちょっとって感じだな。やはり手の方になるか」


 描いたイラストに合わせて刃をあてがってみる。尻尾の方は前の世界の動画サイトで見た「さすタイプの朝~~」にかなり似通ってしまったので、家族全員が「問題ない」と言っても俺としてはちょっと避けたい。


「そうねぇ」


 ディアナが腕を組んで頷いた。クルルのママとして異論はないようだ。

 このデザインだと刃は手から生える爪のように見える。ちょっと「そのまま」っぽく見えるので、もう少し抽象化する必要はあるだろうが、概ねこの方向性で問題無さそうに思う。

 リディがディアナの横からイラストを覗き込んで言った。


「色はつけるんですか?」

「うーん、そうだな。やっぱり緑にはしたいよな」


 確か前に使った染料が少し残っているはずである。足りなくても春になったことだし、息抜きがてら探しに行っても良いし。

 緑、という単語を聞いてか、彼女は普段とは違って興奮気味にコクコクと頷いた。


 最後は貰う側の問題か。


「こういうのは皇帝陛下的にはどうなんだ?」

「ちょっとケレン味のある感じ?」


 アンネの言葉に俺は頷く。モチーフとして禁忌であるかどうかと、このデザインを気に入るとはいかないまでも、せめて置いといても良いかなくらいには思えるかどうかは別の話だからな。


「いいんじゃない? というか好きそうだけどね」


 贈られる側の娘さんはそう請け合ってくれた。これで少なくともうちの製品としての面目は立ちそうだ。

 俺は家族みんなに協力のお礼を言ってから、柄と鞘を作る作業に取りかかった。

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