結局、作業時間中には結論が出なかった。
「うーん、神様っぽいモチーフなら合うかと思ったんだが」
「なんかちょっと違いましたね」
「うん。ズレてる感じがするな」
優美な曲線と、七色の輝き、そして澄んだ音を考えると神々しい感じが合うかと思って、いくつかラフスケッチのようなものも描いて検討したが、いまいちしっくりこない。
マリベルにも見せてみたが、
「うーん……」
と唸ったままで特に感想をくれなかったので、彼女もしっくりこなかったらしい。
今日の作業中は他の皆の作業を中断させないようにしようと思っていたので、他の皆には聞かなかったが、晩飯の後にでも聞いてみるか。
今日の晩飯はいつもの通りだ。ただ、日が落ちてからも寒くない日が増えてきたので、クルルも一緒にいられるテラスでの食事が多い。
当然、その後の会話も静まりかえった……と言いたいが、夜間で見えないながらも鳥の声や獣の声が時折聞こえてくる中でだ。
前の世界で「日本の田舎は静かだと思われているが、虫だの蛙だのでかなりうるさい」と言われていたのを思い出した。
実際にどうなのかは住んだことがないので分からずじまいだが。
「こっちまで来ることはない」とサーミャが請け合ってくれたので、音は気にせず話をする。
「ずっと話し込んでると思ったら、そこを悩んでたのか」
サーミャがそう言って、俺は頷く。
「そうなんだよ。なんかこう『これだ!』って思えるような意匠が思いつかなくてな」
「ちょっと私たちも見てみたいわね」
「ん、ちょっと待ってろ」
ディアナに言われて、俺は火が落ちてこっちは完全に静まりかえった鍛冶場から検討したときのラフスケッチを持ってくる。ついでに書くものもだ。
「これとこれとこれだな」
脇に食器が避けられて空いたスペースに持ってきたラフを並べる。
「どれも良さそうに見えるけどねぇ」
ズラリと並んだ皆の頭の更に上から覗き込むアンネが言った。同じ高さにクルルの頭があって同じように覗き込んで小さな声で「クルルルル」と唸っているが、クルルは理解出来てないだろうな。可愛いから全て許されるが。
「単体で見るとそうなんだよな。あと……」
俺は紙にいつものナイフのデザインをスケッチした。鍛冶のほうか、あるいは生産のほうかは分からないがチートが働いてくれて、なかなかに上手なイラストが描ける。
俺はそれと、持ち手と鞘のデザインに合わせた。
「これはこれで悪くない」
そうして出来たナイフは、多少の神妙さを備えて、これはこれでアリだなと思わせるような感じになる。
それを見たアンネが頷いた。
「確かに」
「アタイが持つにはちょっと派手だな」
ヘレンが横から口を挟んだ。俺は小さく笑って言う。
「実用は度外視してるからな」
「なるほどね」
ヘレンは頷いた。握りやすさとか、抜きやすさとかは全く考えていない。ものとして「一つにまとまっている」と感じられればそれでいい。
「で、アレに合わせるとだな」
今度は作ったオリハルコンナイフの形をざっと描いて、スケッチに合わせた。
合わさった姿を見たディアナが派手に首を捻る。
「ん? んん……」
「微妙だろ」
俺の言葉には全員が頷いた。やはり何かこう、しっくりこないのである。
どうもデザイン周りについてはチートが上手く働いてくれないことがある。恐らく使うには問題ないからだろう。
例えデザインに違和感があろうが、使うことさえできるなら、チート的には問題なしという判断らしい。
俺は空の方を見た。あまり広くはない夜空だが、隙間にひしめくように星々が瞬いている。
「かと言ってシンプルなのが相応しいかというと、贈り物というのは分かってるからな」
「お父様は気にしないでしょうけど、国同士としてはメンツがあるからね」
「王国としても元は帝国からいただいた素材とはいえ、それを伏せるならそれなりに派手にして手間暇かかっていることをアピールできたほうが良いわね」
アンネとディアナが揃って首を横に振った。
王国的にはこういうところでゴリゴリに技術をつぎ込んだものを贈って「これだけ凄いものをお贈りします」とするのは、相手を立てることにもなるし、「うちにはこれを作れるだけの職人がいます」というマウントにもなる。
帝国からすると、マウントはともかく「かなり手間暇をかけた品物を王国がくれたのは、自分たちとの関係を重視しているからだ」と内外にアピールする機会でもある。
どっちの意味でもあんまりシンプルなものが望ましくないことはすぐに分かった。
「華美すぎず、質素すぎずか……」
昼下がりの時に引き続き、家族と娘さんたちは揃って首を傾げるのだった。