「よし、これで形は出来たな」
丸1日同じ事を繰り返し、ようやく最終的な形ができた。稲妻マークのような、しかし直線ではなく曲線で構成されている。間延びしたS字と言えるかも知れない。
ぱっと見には実用っぽくはない。どっちかと言うと祭礼用に見えるなぁ。
まだ刃をつけていない段階だが、結構切れるはずだ。それこそ適当に振るってもそれなりに危険にはなるだろう。
だがそれは、魔力のおかげで切れ味が担保される(であろう)からであって、形状によるものはあんまりない。その意味では、ある種の魔剣と言えるかも知れない。
魔力は形が出来た時点で「もうだいぶ入っていて、これ以上はあまり意味が無いかも」とリディが言ってくれたので、そこで留めておいた。
「どれどれ」
温度が十分に下がったところで、鋼のナイフの背で軽く叩いてみた。
リィン、と小さい鐘がなるような澄んだ音が鍛冶場に響く。鍛えている時も聞いていた音が更に澄んでいるような気がする。
俺は鋼のナイフを金床の上に置いた。さっきとは逆にそこへオリハルコンのナイフの「なりかけ」を少し強めに振り下ろす。はじめて作ったナイフもこんな感じで試したっけな。
だが、俺が期待していたのは涼やかな音だ。オリハルコンの方を叩くより、オリハルコンで叩いたほうが良さそうに思ったのだ。
そして、別にこれらは遊びでやるわけではない。少し条件が変わってしまってはいるが、音の響きの違いで魔力の入り具合や温度変化が分かるかどうかの実験である。
試す機会がそうあるわけじゃないからな……。
俺はチートの手助けで知ることができるが、リケはそうではないし、俺も少しずつでもチートを使わずできるようになっていったほうがいいように思うのだ。
今のところ全くその兆候はないが、いつチートの“効き”が悪くなったり、あるいは一切の力を失ったりしないとも限らない。
そうなったらリケに弟子入りするのもありかも知れないが。
ともあれ、そんなことになるべくならないよう、試せるものはなるべく試して、今のうちに色んな経験として身に着けておきたい。
そう思って振るったオリハルコンは、ストンと鋼を切り落とした。まだ刃をつけていないにもかかわらずである。
「えっ」
「えっ」
俺と横からずっと実験を見ていたリケが同じ言葉を発した。思いも寄らぬ切れ味をみせたのも、ここへ来た頃をちょっと思い出すな……。
いや、今は懐かしがっている場合ではない。刃もないのに鋼を切り落とす武器はさすがに外に出すのを躊躇ってしまいそうだ。
強いからではない。危ないからである。
「待て待て、まず試してみよう」
「で、ですね」
俺はそっと鋼のナイフにオリハルコンをあてがう。それで切れることはなかった。
そのままスッと引いてみるが、やはりスッパリと切れることはない。多少筋はついたが、かなり硬いものを当てれば傷がつくと言った程度のものだ。
「こうすれば普通だな」
「ということは純粋な切れ味というわけではないようですね」
「そうだな」
純粋に切れ味が増しているなら、ここでスッパリ切れているはずだし、無条件に切れるようなら、さっき背で軽く叩いた時にナイフの先がなくなっていただろう。
「何か条件があるんだろうな」
「力の強さですかね」
「かなぁ」
俺とリケは揃って腕組みをした。うーん、条件か。今のところ思い当たるのは確かに力の加減だが……。
「いや、待てよ」
さっきやったことを思い返しながら、俺の脳裏には1つの仮説が思い浮かんだ。これもちょっと試してみるか。
俺は再びオリハルコンを手に取ると、鋼のナイフめがけて振り下ろした。