リンリンと鈴の鳴るような音を響かせながらオリハルコンを叩く。魔宝石は砕け散ることなく、その大きさを減じていき、やがてその姿を消した。
「うん、やっぱり形ができてきてるな」
「そうですね」
オリハルコンの熱も既に加工できる域を下回ってしまった。うっかり触れていい温度でもないが、昨日同じように作業したときと比べて明らかにナイフの形に近づいている。
作業スピードの方はこれで大丈夫そうだ。と、なると気になるのはもう一つ。
「リディ、すまんがちょっと来てくれ」
俺が声をかけると、リディはパタパタと小走りにやってきてくれる。
「どうしました?」
「これを見てくれ。まだ熱は持ってるから気をつけてな」
俺は魔宝石が消え失せたあとのオリハルコンをリディに指し示すと、じっとそれを見据えた。
キラリとオリハルコンが光を反射する。どういう理屈かはわからないが、光は虹色だ。
「手応えから言って大丈夫だとは思うが、魔宝石の魔力がちゃんと入ってるか確認して欲しいんだ」
「わかりました」
リディは俺の言葉に頷くと、一層目を細める。細めた目が虹色の光をうつして、あたかもそれ自身が虹色の光を放っているかのようだ。
「……」
鍛冶場に沈黙が流れる。いつの間にか他の皆も手を止めているようだ。
ゴクリと唾を飲み込んだのは俺だったか、リケだったか。二人ともかもしれない。
「大丈夫そうです」
リディがニッコリと微笑んでそう言うと、鍛冶場に快哉が響いた。
「ただ」
続いたリディの言葉に俺とリケは動きを止めた。リディは少し困ったような顔をしている。何か問題でもあったのだろうか。
「これはまだまだ〝入ります〟ね」
「魔宝石1つや2つじゃ足りないかもとは思っていたが、そんなにか?」
リディはもう一度頷いた。
「無尽蔵、というわけではないでしょうが、かなり入りそうです」
「ふむ……」
俺は腕を組んだ。作業スピードは今現在でも確保できている。
明後日には形が出来上がり、研いで柄に革を巻き、ちょっと洒落た鞘を作れば完成と言えるだろう。
――問題はどれくらい魔力をこめて渡せば良いかだ。勿論オリハルコンに入るぶんは全てこめるのはありだ。
期限いっぱいこめる手もありだろう。その間に限界を迎えるかもしれないし。
ただ、それほどの魔力を秘めたものを外に出して良いのか? が問題だ。
王国から帝国に回るのは、俺に依頼が来ている時点で王国として織り込み済みだろうからそこはいい。
俺がチートで金属を鍛えるとき、基本的に魔力がこもっていればこもっているほど、常識外れの性能になる。そういうものが世に出ていいのだろうか。
「強い武器」が世に出回ることについてはとっくに割り切っているが、それにも限度というものはあるべきではないだろうか。
「親方?」
心配そうに俺の方を見るリケ。俺は慌てて手を振った。
「いや、なんでもない」
よし、俺は俺として自分が作れる最高を追い求めよう。
それはいつか、誰かのオリハルコンを鍛えるときに必要になってくるだろう経験だ。チートがあっても未熟な俺がここで尻込みしていてどうする。俺は心の中で自分の頬を張った。
「ちょっとずつ、様子見しながらやるか」
「はい!」
「頑張ってくださいね」
気合いの入ったリケの声と、穏やかなリディの応援。それに見送られるように、俺は魔宝石の作業をすべく、腕まくりをするのだった。