魔宝石の作り方は心得ている。正確に言えば「できる方法を一つ知っている」だが。いずれ効率のいい作りかたも探らないとだし、魔宝石が雲散霧消しなくなる術も見つけなくてはいけないなぁ。
ともあれ、普段から妖精さんたちのために常に準備してある魔宝石製作キット――と言っても、ただの鋼の箱だが――を用意する。
あらかじめ限界まで魔力のこもったこの鋼の箱に更に魔力をこめようとすれば、限界を超えた魔力は鋼から溢れる。
その溢れた魔力は鋼の箱の中にたまり、濃縮されていき、やがて結晶化したものが魔宝石というわけだ。
メギスチウムの加工や、妖精さんの病気を治療するときはとにかく早く作れれば、それに越したことはなかった。
だが今回は違う。タイミングを合わせる必要がある。俺の方が完了時間に幅を持たせられるので、俺がマリベルの完了に合わせる形にする。
「それじゃいくよー!」
「おう」
マリベルのかけ声に、俺は短く答えた。ゴウと魔力の炎が熾るのを見て、俺は魔力のたっぷりこもった鋼の箱を力と魔力をこめて叩く。
キィン、と鋼を普通に叩いた時よりも澄んだ音が鍛冶場に響く。魔力を蓄えた金属は総じて綺麗な音をさせる。ミスリルなんかはガラスのような音になるのだ。
だが、今はその音を楽しんでいる余裕はない。マリベルと加熱されるオリハルコンの様子を窺いながら、魔力をこめていく。
マリベルが気合いを入れてくれているのか、オリハルコンの温度上昇が少し早い。それに合わせて、俺も少し急ぎ気味に鋼の箱を叩いていく。
まるで俺が鋼の箱を叩くとオリハルコンの温度が上がるようにも見える。もちろん、それくらい合わせていかないといけないのだが。
「ぐににににに」
気合いを入れるマリベル。青白い炎が勢いよく上がる。
「ほっ」
俺も負けじと気合いを入れて叩く。ゴウゴウと上がる炎に、澄んだ鋼の音、そこに普段のものを作ってくれている皆の音も加わって、ちょっとした演奏会のようでもある。
そんな中、俺とマリベルの様子を一瞬でも見逃すまいと、真剣な目つきでリケが見ていて、彼女がこのささやか演奏会の唯一の聴衆だった。
「たぶんそろそろだよ!」
「承知!」
マリベルの合図に俺は答える。ほんの僅か、魔宝石ができるほうがオリハルコンの加熱が終了するよりも早いが、これくらいなら完全に許容範囲内だ。
俺はチートの手助けを借りてオリハルコンが十分に加熱されたことを確認すると、ヤットコでそれを掴んで金床に持って行きつつ、叩いていた鋼の箱の蓋を開けて、中をまさぐった。
指先にコツンと当たる感触。目的のものは思った通りできていたらしい。俺はそれを摘まんで、金床に置いたばかりのオリハルコンの上にのせる。
「よし、やってくれ」
「はい!」
勢いよく、だが慎重にリケは手にしていたハンマーを振り下ろす。魔宝石への当たりかたによっては飛んでいってしまうからな。
リケが上手に魔宝石にハンマーを当てる。その衝撃は魔宝石を通じてオリハルコンにも伝わったようだ。
キィンどころか、リンとまさに鈴の鳴るような澄んだ音が一際大きく鍛冶場に響く。
あまりに綺麗な音色なので、リケのハンマーに合わせなければいけない俺の手も止まりそうだった。
「上手くいったみたいだな」
「ですね!」
そう言って俺とリケは澄んだ音のセッションを続けるのだった。