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親方と弟子

「普段の品物はどうしましょう?」

「あっちは少なくても……いや、1つもなくてもいいって言ってたし、何なら俺が夜っぴてやれば、それなりの数は揃うだろ」


 サーミャ達が森へ出かけるのを見送り、鍛冶場へ移動しながら俺とリケは話す。もちろん、マリベルも一緒にいる。


「手伝おうか!?」

「いや……」


 勢い込んで言うマリベル。その目があまりにキラキラと輝いていたので、「別にいいよ」という断りの言葉を俺はぐっと飲みこんだ。


「そうだな、もしどうにもならなさそうだったら頼むよ」

「わかった!!」


 胸を張るマリベルの頭を、俺はガシガシと撫でてやった。


「よし、やるか!」

『おー!』


 リケとマリベルが声を合わせて、拳を突き上げる。伝説の鉱物を相手にするにしては和やかな始まりだが、これはこれで我がエイゾウ工房らしいな。

 そう思って、俺は肩をぐるりと回した。


「いくよー!」

「おう」


 マリベルは火床の真ん中に陣取るとグッと力を篭めた。すると、青と白の間を行き来する炎がたちのぼる。


「ふぬぬぬぬぬ……」


 俺はすかさずオリハルコンをヤットコで掴んでマリベルのそばに差し出した。マリベルがそれをギュッと抱きしめる。微笑ましい光景だが、目を細めてばかりもいられない。

 チートを使ってオリハルコンの状態を見極める。普通の火で熱したときとは違う変化が今日も起きている。


 じわりじわりとオリハルコンが加工可能な状態になりつつあることを、俺の目はとらえていた。リケも大鎚を手に、横からじっと覗き込んでいる。

 青と白の炎の中で、虹色が混じった金色に輝くオリハルコンである。鋼を鍛えるときとは何もかもが違い過ぎて、応用を利かせるのは難しいだろうな。


 しかし、チート抜きでオリハルコンを鍛えることができるようになれば、ドワーフの風習である故郷の工房に技術を持ち帰るには十分だろう。この世界でもなかなかの謎であるオリハルコンを鍛える条件を知っているだけでも、かなりのアドバンテージがあるのだし。

 問題はマリベルが出している(?)ような「純粋な魔力の炎」を用意するのは困難であろうということか。そこはまぁ……なんとかしてもらうしかないが。


「よし、いいぞ」

「あいー」


 マリベルがオリハルコンを離し、その場にへたりこんだ。お疲れさん。労ってやりたいところだが、お父さんは今から仕事だ。

 マリベルが熱してくれたオリハルコンを金床に載せ、俺は鎚で一叩きする。澄んだ音が鍛冶場に流れた。

 じっくり確認している暇はないが、変形してくれたことが分かる。


 カンカン、と鍛冶場に金属音が響く。俺が金床を鎚で軽く叩いた音だ。その合図に合わせて、リケが大槌をオリハルコンに振り下ろす。

 キィン。一際大きな、澄んだ音が響く。今のところはナイフの大きさに整えるのが最優先だ。

 リケが叩いたあと、俺が別のところを叩き、更にリケが叩く。時折、金床を鎚で叩いて叩く場所とタイミングを指示する。


 しかし、そう時間が経たないうちにオリハルコンは冷えてしまった。こうなったらもうウンともスンとも言わなくなる。

 俺は火床のところから俺たちの作業を興味深そうに見ていたマリベルに、いくらか形が変わったオリハルコンを差し出した。


「マリベル」

「わかった!」

「すまんな」

「いいってことよー」


 そう言いながら、マリベルは力を篭め、自ら発する炎でオリハルコンを包み込む。鎚で叩いているときよりも集中して、オリハルコンの様子をチェックする。


「そう言えば」


 同じようにオリハルコンから目を離さずにリケが言った。一瞬そちらへ顔を向けかけたが、俺もオリハルコンから目を離さない。


「こうやるのもかなり久しぶりですねぇ」

「ああ、そう言えばそうか」


 基本的にはリケには通常モデルと高級モデルを任せていて、「特別な」仕事の時もあまり手伝って貰ったことはない。「見て覚えてくれ」と見せていたことはあるが。


「親方と弟子っぽいな」

「そうですね」


 そう言って2人で笑う。さて、またマリベルが頑張ってくれた分頑張らないとな。親方と弟子で。

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