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お祝いの夜

「やっぱりエイゾウくんは料理が上手ねぇ」


 テラスのテーブルでしみじみとリュイサさんが言った。“黒の森”の主であり、“大地の竜”の一部であるところの彼女はもちろん食事をする必要はない。

 なので、食事をしてもそれは「真似っこ」のようなもので、取り込んだり出したりということはないらしい。

 食べたはずのものが、どこに消えているのかは聞かず、代わりに「どうも」と頭を下げておいた。


 基本的には魔力を糧に生きているクルルとハヤテ、そして最近食事量が増えたとは言え、量自体はさほど多くないルーシー達は早々に食事を終え、炎の精霊でリュイサさん同様、本質的には食事を必要としないマリベルと一緒に、テラスから漏れる光の中、庭ではしゃぎ回っている。

 お帰りの挨拶もそこそこだが、うちらしいっちゃうちらしい。


「よくこの暗闇で走れるなぁ……って、俺よりも見えてるか」


 うちの娘さん達はドラゴンに狼、そして精霊だ。夜目に関しては人間の俺では太刀打ちできないだろうな。


「サーミャも見えてるよな?」

「ん? ああ、見えてる」


 サーミャはワインの入ったカップを片手に、もう片方の腕をスイと伸ばした。


「あの森のちょっと奥くらいかな」


 彼女が指さした先、そこには俺は真っ暗闇しか見えない。鳴子を仕掛けたりしているところでいつも見ているし、なんとなく想像はできるが。

 それを聞いてリケが言った。


「さすがサーミャね」

「リケはそこまでは見えないか」

「私はもう少し手前までです」

「俺と比べれば十分見えてるな」


 俺は苦笑した。明かりが近くにあって夜目が利きにくいことを差し引いても、俺が見えるようになることはありそうにない。


「種族の違いか」

「私も見えてますからね」


 エッヘンと小さく胸を張るリディ。彼女の夜目が利くのはエルフだからだろう。


「夜目の利く利かないは本当に重要だな……」


 ここを襲撃する輩がいたとして昼間とは限らない。いやまぁ、昼でも十分危険な“黒の森”に夜襲をかける度胸があるやつがそうそういるとは思えないが。

 だが、それは皆無であることを意味しないし、それでも夜襲をかけてくるような連中なら手練れだろうな。


「アタイはリケと同じくらいは見えてるから、なんとかなると思う」


 グイッとカップを傾けてから、ヘレンが言った。プロの傭兵だからそういう訓練、いや、実戦で身に着けたものだろうか。

 にしてもドワーフと同じ程度に利くとは、元々スピードの面で人の域を越えているなと思っていたが、それ以外でも常人を越える能力があるのか。

 そう言えば、常人を越えるほどではなくても力も強かったな。


「私は全然ね。こういうのは役に立てそうにないわ」


 少し肩を落とすディアナ。


「いや、うちの場合は周りが凄すぎるだけだ」


 俺の言葉には、既に顔が赤いアンネがコクコクと頷く。常人組は常人組で頑張るしかないな。

 ポンポンとディアナとアンネの肩を叩いた俺は、少し酔いも手伝って、娘達がはしゃいでいるところに加わる。

 また明日頑張る活力を貰いながら、小さな小さな宴は続いていった。


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