いつもなら俺の作業は魔力を「こめる」ほうだ。特注品には限界までこめる。そうでないものはほどほどで止めておく。
俺が作った製品のランクの違いは、もちろん本体の作りもあるにはあるが、一番は魔力の量の違いだろう。
しかし、次はこもっているはずの魔力をわざと「抜く」ほうに作業する。
うちの特注品が鋼でも硬く強いのは魔力をふんだんに取り込んでいるからである。オリハルコンに含まれている魔力は、かなり見えにくいのだが、リディにも少し見てもらったところでは「結構入っているのでは」との事だった。
では、その入っている魔力を抜いたらどうか? 見えにくいだけでかなり魔力を含んでいるのがオリハルコンの特性だとしたら、抜ければ加工できるようになるかも知れない。
それこそ、魔力をこめる前のメギスチウムのように。
あれは通常の手段では魔力がこもっていかずに、入れる先から抜けてしまっていた。その状態では粘土のように指だけで形が変わるような状態だった。
魔力が抜けていかないように工夫をして魔力をこめると、メギスチウムはかっちりと固まったのだ。それこそ、並の刃物などでは傷一つつかないほどに。
その逆が起こってくれれば良いんだが。
準備したのは作ったあと何もしていない板金だ。溶けた鋼を型に流して固めただけで、当然魔力はこもっていない。
それを金床の上に下敷きのように置いて、更にその上にオリハルコンを置く。これを鎚で叩けば、魔力のない板金にオリハルコンの魔力が移っていく。
つまり、オリハルコンの魔力が抜けていく……はずだ。
この作業に力はいらない。叩くべきところはチートが教えてくれるし、最小限の力でコツコツとオリハルコンを鎚で叩いていく。
普段ならキラキラとしたものが素材に吸い込まれていくような感じなのだが、今はそれがない。
軽やかな金属音をしばらく聞いた後、オリハルコンを持ち上げてみる。下敷きにしていた板金にはキラキラとしたものがわずかにまとわりついている。魔力だ。
鎚を矯めつ眇めつして確認してみたが、こっちにこめた魔力は減っていないようだ。
つまり、板金の魔力はオリハルコンから移ったもののはずである。
「ふむ」
俺はオリハルコンを手に取って表面を撫でてみる。
うーん、どうにも状態が分かりにくいな。入っている魔力の量がもう少し把握できればな。
そんな事を思う俺を嘲笑うかのように、オリハルコンは自身の煌めきを俺に見せつけてくる。
しかし、これでへそを曲げていても仕方ない。板金に移せるだけ魔力を移して、都度具合を確認していくか。
俺は小さくため息をついて、オリハルコンを再び板金の上に戻した。
簡単な――いつも通りではある――昼飯を終えて午後、俺は未だにオリハルコンから魔力を抜き続けていた。
俺の背後にはオリハルコンから抜けた魔力を限界まで移された板金がいくつも転がっている。
「さすがに多少は影響があるか?」
真夜中になっても終わらない可能性もありそうなので、ここらで一度確認してみることにした。板金に移した魔力の量を考えれば、ロングソード10本にたっぷり魔力をこめてもまだお釣りが来るはずだ。
そんな量の魔力が、せいぜいナイフを作れる程度の量の素材に収まっていただけでも驚きなのだが。
「よっ」
オリハルコンをガツン、と少し強めに鎚で叩く。勢いよく叩いた時に鎚の軸が緩んでしまったのは今朝の話なので、あまり強くなりすぎないようにする。
キィン、と澄んだ音がする。しかし、心なしか今朝聞いたよりもいくらか澄んで“いない”ように聞こえる。
これならひょっとすると……。
俺は、今叩いたオリハルコンを手に取って、鎚の力で多少でも歪んだりしていないか、内心のドキドキを抑えながら確認するのだった。