「で、素材は何なんだ?」
俺が聞くと、カミロが番頭さんのほうを振り返る。番頭さんは頷くと、一度部屋を出て行った。
「この辺はちょっとした茶番というか……お前にはいつも付き合わせてすまんがな」
「今更だろ?」
「そりゃそうなんだが、もう少し優しく言えないのか」
カミロは苦笑した。
「オッさん同士で優しくする必要もないだろ」
「それも確かにそうだけどな」
そこで番頭さんが部屋に戻ってくる。手には頑丈そうな箱を持っていた。大きさは然程ではない。猫がみっちり詰まって喜びそうなくらいの大きさだ。
番頭さんがそれをカミロに差し出すと、受け取ってテーブルの上に置いた。
箱の形状は乱暴に言えば、前の世界でコンピュータRPGに出てきた宝箱のような形で、ただ上が山形ではなく柳行李のように平たくなっている。
「じゃ、これがそれだ」
カミロは箱を開けた。すると、まばゆい輝きを放つ物体が現れる。その輝きはすぐに落ち着いた。
今のは魔力の光っぽかったな。あとでリディに聞いてみよう。
輝きの落ち着いた物体は、金っぽい色をしているが、差し込む日の光は虹色に反射していた。色だけ見るとオイルをぶちまけられてしまった金のような印象を受ける。
チラッと俺がカミロのほうを見ると、カミロは頷いた。
俺はそっと箱の中の物体に手を伸ばす。触れるとヒンヤリとした感触が指に伝わってくる。グッと押してみたが凹んでしまうようなこともない。
「色はともかく、触れた感じは金属だな」
メギスチウムのように柔らかいことも、ヒヒイロカネのようにほんのり温かさを感じることもない。
持ち上げてみると、大きさに比してかなりずしりとした重みがある。
「重いな」
「そりゃあまあ、そうだろうな」
「これはなんなんだ? 少なくともアダマンタイトやヒヒイロカネ、アポイタカラ、メギスチウムじゃないようだが」
どれも俺が見たことのある金属である。そのどれとも違っている。強いて言えばアダマンタイトが一番近いが、それとは全く異なった特徴をこの素材は示していた。
つまり、そのどれでもないということだ。
「お前でも知らないものがあったか」
「知らないものばかりで時々凹んでるよ」
俺の鍛冶のチートは、細かい材質や加工方法までは教えてくれないことが多い。知識系を詰め込んだ“インストール”のほうも、命に直接関わりそうなものはともかく、それ以外はおぼろげだったり、そもそも情報がなかったりする。
自分で知っていく楽しみがあるとも言えるが、手っ取り早く知りたい場面も結構あるので善し悪しだな。
ともあれ、この金属らしき素材を眺めていても、脳裏に何か閃いてくることはない。
俺は両手を挙げた。
「ダメだ、さっぱり分からん」
カミロはニヤニヤ具合をより加速させた。
「そいつはな――」
ゴクリ。誰かが呑み込む唾の音が聞こえた気がするほどの静けさ。
「オリハルコンだ」
ガタリと全員が立ち上がる。その視線の先には俺が危うく取り落とすところだったオリハルコン。
「これが……」
再び静かになる室内。オリハルコンが笑うようにキラリと虹色の光を反射するのだった。