「それじゃあ、両手剣は今日できそうなんですね?」
「ええ」
朝食に用意したスープを口に運びながらのアンネの言葉に、俺は頷いた。
「ここからの作業はそう多くないですからね。ただ、今日一日かかりますんで、今日のご帰還は無理かと思います。なにより、この雨ですし」
「そうですねぇ」
のんびりとアンネは答える。「目が覚めた」とは言っていたが、本調子までには時間がかかるタイプと見た。
「晴れていれば、森の中をご案内差し上げるところですが、この様子なのでそれもなしです」
「それは全然構いませんよ。私、体を動かすのは苦手なんです」
思わず「嘘だ!」と叫びそうになるが、そこはグッとこらえた。えらいぞ、俺。サーミャが鼻をヒクヒクさせているのは同じことを思ったからだろう。
まぁ、実際戦闘能力よりは頭の回転の速さを期待して、ここに送り込まれたんだろうしな。
「それでは、アンネさんには今日も見学していただくということで」
「ええ。よろしくお願いします」
俺とリケで両手剣、他のメンツには今日も板金を作ってもらう。アンネは見学で、クルルとルーシーは小屋でお留守番だ。
鍛冶場にある神棚に皆で拝礼する。アンネには「別にやってもやらなくても平気ですよ」と言っておいたが、見様見真似で俺たちと一緒にやっていた。
「こういうの、心が引き締まりますね」
と言っていたが、腹がくちくなっているからだろう、特徴的なタレ目がややとろんとしている。この後は見学だけだし、ルーシーもこっちにはいないので別に部屋で寝ててくれてもいいんだが。
俺は軽くため息をついて、作業の準備に取り掛かった。
前日までで目的の長さまでは延ばすことが出来た両手剣だが、形状的にはまだ普通の鉄板だ。ここから叩いて剣の形を作っていかねばならない。
一度に全体は加熱できないし、したとしてもあまり意味がない。部分ごとに加熱したときの問題は熱の入り方にバラツキがでないかだが、そこは俺なので問題は起きないだろう。
部分ごとに加熱して、俺とリケで息を合わせて叩いていく。最初は剣身になる側からで、断面が六角形に近い形状を目指す。
両手剣が全てそうではないが、こいつに関しては”重さ”の武器にするため、刃の部分は多く取らずに、左右合わせて1/4程度の幅だけにしておいた。
逆の柄になる方はストレートな円柱状に加工していく。反対側が重いので取り回しがしにくいが、なんとか加熱と加工を行うことが出来た。
「ちょっと失礼」
アンネに両手で握りこぶしを作ってもらい、その長さで日本刀で言う柄頭を接合する。ピン留めにしないのは、負荷が大きそうだからだ。
負荷が大きいとそれだけ傷むのも早くなる。ちょっとそれは避けたいところだ。
熱した部品と、柄の端を小さめの鎚で丁寧に叩いていく。このときはつなぐことを優先して、魔力云々は気にしない。
こうして、鍔のない両手剣の姿が出来上がった。時間的には昼をちょっと回ったあたりだ。
「姿はこんなもんか。それじゃあメシにして、続きで仕上げちまおう」
「はい!」
俺がリケにそう声をかけると、彼女は昼食の時間であることを皆に告げて回った。