鉄の塊をなんとか目的とする170センチくらいまで伸ばすことが出来た。
長い片方は当然剣身になるわけだが、もう片方はさらに加工して柄になる。このあたりはショートソードやロングソードとそう違いはない。
ただ、仕上がりの長さが180センチほどと、アンネの身長に近いサイズになるだけである。とは言っても、長い分作業の時間は余計にかかる。1人で完結できないし、勝手が色々と違ってくるからだ。
「そう言えば、最初の頃はリケとロングソード打ってたな」
「ああ、そうでしたね」
いつ頃からだろうか、1人で作業するようになったのは。それだけリケの成長が早いということではある。俺がこっちに来てから、1年も過ぎていない。
それなのに2人での作業になんとなく懐かしさすら感じる。それはリケも同じようで、感慨深そうな顔をしていた。
「今日はここまでだが、明日もよろしく頼むな」
「もちろんです!」
俺の言葉に、リケは満面の笑みで応えた。
その日の夕食も、家族+アンネで賑やかにとる。ルーシーはと言うと、いくつか与えた肉を食べるとすぐに出せと騒いで、大きめの肉を一切れ咥えてクルルのいる小屋へ走っていった。お姉ちゃんに分けるつもりだろうか。
「あのワンちゃん、賢いですね」
外に出たがったルーシーのために俺が開けた扉から、彼女が走っていった方向を見ながらアンネが言った。今日の午後の大半を一緒に過ごして、すっかり情が移ったらしい。
実際には犬ではなく、この森に棲む狼の子供なのだが、そこは説明しなくてもいいだろう。
「そうでしょう!」
いつの間にか横にきていたディアナが胸を張って自慢気にしている。ママとしては子供が褒められたら嬉しいよな。実のところ、俺も嬉しい。その賢さが魔物になっているところから来たとしても、嬉しいものは嬉しいのだ。
扉を閉めながら、俺はディアナに言った。
「明日雨が強かったら、2人とも小屋にいてもらうしかないかな」
「そうねぇ」
ディアナは少し寂しそうにしているが、そこそこ広く作った小屋だ、2人でいれば退屈はしないだろう。飯はこっちから持っていってやればいい。
俺たちは中断した夕食の続きをするべく、食卓に戻った。
「じゃあ、帝国――と言うか皇帝陛下はあまりヘレンの件を問題視はしてないと?」
「そうですね」
この機会なので、帝国側の事情を少し深めに聞いてみることにした。はぐらかされたら当たり障りのない話だけで終わらせるつもりだったが、意外にもアンネはあっさり応じてくれた。
「革命については”後始末”も含めて片付いてますし、今更あれは茶番だったと1人が騒いだところで何ができるわけでもないですから。陛下もポーズとして追っ手を出しましたけど、この場所が分からずとも長くて1ヶ月もしたら打ち切ったはずですよ」
「何もしないと今度はそれも茶番だったのかと疑われますからね。実際ほとんど茶番になってしまったわけですが」
「ええ」
アンネは頷いて、スープを口に運んだ。ちなみに3杯目である。口に合って何よりだ。
口の中のスープをごくりと飲み込んで、アンネは続ける。
「どちらかと言うと、ヘレンさんに見つかった部隊長のほうにご立腹でした」
「ああ、でしょうね」
言っちゃなんだが、単にヘマしただけだからな。その尻拭いで別の茶番を演じなければならなかった皇帝の心中を、若干だがお察しするところである。
「特に処分を下してはいませんが、出世は難しくなったでしょうね」
ごく冷ややかにアンネは言った。
もしかすると、アンネもいくらかは関わっていたのかも知れない。そう思い、背中を少し涼しくしながらこの日の夕食を終えた。