雨に濡れたアンネの服と外套は、俺達の服と一緒にテラスに干しておくことにした。
客間に案内されたアンネはそこに荷物をおいて、服を着替えた。今彼女が着ているのはディアナのワンピースなのだが、普通の服っぽく見える。下もズボンタイプのものをはいていて動きやすそうだ。
「すみません、色々と」
「いえいえ」
アンネが頭を下げて、ディアナが応対している。お姫様とお嬢様のハイソな会話のはずなのだが、内容が浮世離れしていないせいか、逆に違和感すらあるな。
テラスに服を干しに出ていたリケとリディがルーシーを連れて戻ってきた。テラスで寝ていたらしい。ちょっとでもクルルが分かるところにいたいのだろうか。
「いただきます」
いつもどおりの昼飯を並べた食卓に全員が着席(ルーシーは床で待っている)したところで、いただきますをする。アンネもおっかなびっくりな感じだが、俺たちを真似していた。
「うちはこういうものしかなくて、すみませんね」
「いえ、お邪魔してる立場ですし、どうぞお気になさらず」
口に合うかどうか心配だったが、どうも杞憂だったようだ。普通に……婉曲的に言えば体の大きさに合わせた量を食べているので、この先2~3日程度だとは思うが心配はないな。
メシが口に合わない状態で過ごす2~3日って意外と辛いからなぁ……。
昼飯が終わったら、鍛冶場に戻って作業の続きだ。両手剣の分の鉄は確保したので、リケを除く皆には板金づくりに戻ってもらう。
「リケはこっち手伝ってくれな」
「もちろんです」
意外とたくましい力こぶを見せながら、リケはにっこりと微笑んだ。
流石に両手剣を1人で製作するのは厳しいので手伝いが必要だ。こういう作業のときは見学させるのだし、リケに手伝ってもらえば手間が少ない。
火床いっぱいいっぱいの鉄の塊を全力で熱する。温度を上げたら、金床で叩いていくのは他の剣と変わらない。だが、
「重いし熱いな……」
火床に持っていく時点で重かったが、今はそれに熱も加わっている。ヤットコで掴むしか無いし、より重く感じるというのもあるだろう。
全力で金床まで持っていくと、リケと呼吸を合わせて叩いていく。俺も叩くが、叩いて欲しいところは鎚で合図する。親とも鍛冶仕事をしていたからだろう、俺の合図をすぐ理解して、思ったとおりに叩いてくれた。
少しして温度が下がると、再び火床に持っていって熱するが、やはり重い。
「そのうち腰をいわしそうだ」
「うちの父親も時々腰を痛めてましたから、気をつけてくださいね」
「そうだな……」
トントンと腰を叩きながら、火の具合を見る。魔法の火床は紅い胃袋に鉄をおさめ、消化するかのように炎と同じ色に鉄を熱していく。
再び取り出したら、金床で叩いて延ばす。まだ目的の長さにも達してないので、魔力周りは二の次だ。とにかく今は長さ最優先で作業を進める。
傍らでは、作業を見学するアンネの膝でルーシーが丸まっていて、ディアナが少し恨めしそうにしていた。ルーシーは人懐っこいからな……。
「あ、できればその子にも水をあげてやってください。このお皿に入れたら自分で飲みますから」
ルーシーには毛皮がある分、鍛冶場では暑くなりやすい。専用の皿を用意して、そこで水分補給してもらおう。時折は様子を見て危なそうならすぐに家に引っ込んでもらうか。
そんなことを考えながら、俺はずいぶん長くなった鉄の塊に鎚を振り下ろした。