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両手剣製作開始

 うちの工房の板金は大体次のサイズになっている。あくまで目安量だが、1枚でナイフ、2枚でショートソード、3枚でロングソードが出来るような感じだ。

 あくまでも目安なので増えたり減ったりも日常茶飯事ではあるが。上記3つに該当しないようなものの場合は適当だし。


 さて、そこでツーハンデッドソードを作ったら、板金が何枚いるかという話である。板金の製作についてはおおよそ手順が確立できているので、それ自体は問題ないのだが、大量消費するためだけに板金を大量に作るというのも、あまり意味はない。


「板金は使わずに、炉から作業始めるか」


 俺はリケにそう話しかけた。リケが頷いて言う。


「板金からだと量を確保するのに二度手間になりそうですからね」

「そうだな」


 リケの言葉に今度は俺が頷く番だった。こうやって意図を汲みとってくれるのは非常に助かる。

 リケはサーミャ達に声をかけて、炉に鉄石を投入し始めた。温度が十分に上がって鉄が出てくるまでは少し時間がある。


「アンネさんは休まれます?」

「いえ、可能ならこちらで作業を見せていただければと」

「わかりました」


 アンネは少し驚いた顔をした。普通の鍛冶屋なら、弟子でもない人間にこういう仕事場はあまり見せないのだろうが、うちは普通じゃないからな。

 とりあえず見学している、ということなので、客間の心配とアンネの存在を頭の中から追いやって、仕事に集中することにする。


 炉に入るギリギリまで鉄石を沸かして、取り出せるようになったら流していく。

 いつもなら板金1枚分で止めるところを、そのまま流し続けていって、大きな板にする。

 その1回で足りれば良いのだが、足りなかったのでもう一度鉄石を沸かす。

 炉もマジックアイテムの一種|(らしいの)で、鍛冶場の気温上昇も抑えられているようなのだが、1000度を超える物体がそこにあるという物理的なところまではどうしようもない。

 そう時間もたたないうちに汗がだらだらと流れてくる。うちの家族はそれぞれに用意してある木製のカップで水瓶から水分補給をしているが、アンネはそうしない。


「早めに着ているものを脱いで、水を飲んだ方が良いですよ。暑くて気分が悪くなるとまずい」

「わ、わかりました」


 リディが客用のカップをアンネに渡した。熱中症で倒れても、点滴なんかはないし、対応には限界があるから、自分で防止して貰うほかない。


 2回目に鉄を流し終える頃には、雨に濡れたはずのアンネと負けず劣らずの様相を呈していた。

 鉄が少し冷えるのを待つのと、俺たちの体も冷やす時間が必要であること、そしてなによりちょうど良い時間なので昼飯にしようということになり、俺たちは鍛冶場を後にした。

 ディアナにアンネを客間へ案内しておいて貰う事も忘れない。

 しかし、ウチの客間もそのうち増やした方が良いのかも知れないな。今別の客が来たら空いてる部屋に案内する以外に方法がない。

 アンネの仕事が片付いたら、その辺りどうするかを皆で決めよう。そう思いながら、俺は人のいなくなった鍛冶場の扉を閉めた。

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