「両手剣……ですか」
「ええ」
俺の言葉にアンネは頷いた。確かに彼女の身長から振り下ろされる両手剣の威力は想像するだに恐ろしい。唐竹割りは無理でも、普通に頭蓋の1つや2つはスイカ割りのごとく割ってしまうのではなかろうか。
振り回すこと自体が出来るのか、ということも一瞬頭をよぎったが、高身長なので分かりにくいだけで彼女の身体は全体的にがっしりしている。リケを縦に伸ばしたような感じというか。
「扱いには慣れてらっしゃる、と思ってよろしいですか?」
「そうですね。頭の方は兄様や姉様達に敵わないですし、小さな武器もハリエット姉様の方が上手なので。私は種族もあってこんな体ですし……」
アンネも決して馬鹿ではないと思うのだがな。ん?種族?デカいなとは思っていたが、もしや。
「失礼ですが、巨人族でいらっしゃる?」
「ええ。王国の皆さんはあまり御存知でないかも知れませんね。帝国では隠してないので特に気にする人もいませんが、陛下は人間族で母は巨人族ですよ」
「ほほう」
なるほど。前に見た巨人族の男は3メートルと言われても納得できる大きさだったが、人間族と巨人族の子ならそこまでは大きくならないということか。
「ハリエット姉様はリザードマンですし、エレノア姉さまはドワーフ、レオポルト兄様は獣人族です。陛下はそのあたり”
そこでアンネは意味ありげに俺の方を見た。「貴方もでしょう?」と言いたいのだろうが、差別をしないよう努めているだけで、そういうこととは違うぞ。……違うよな?
「わかりました。それじゃあ両手剣を作りましょう」
「ありがとうございます」
座ったままアンネは深々と頭を下げた。
「それで、お代の方は?」
「ああ、それは出来栄えを見て、納得する額を支払って頂ければ」
「えっ」
アンネに聞かれたことに答えると、困惑している。それを見たリケがため息をつきながら言った。
「うちの親方、こういう人なんです」
「なるほど、一流の職人の作品を求めるなら、その値段を見極められる使い手でなくてはいけないということですね」
リケの言葉を聞いたアンネは何を勘違いしたのか、そんなことを言い始めた。なので、俺が「単に納得できる値段を貰えばいいだけだ」と言おうとしたが、それは後ろから伸びて来た手に塞がれてしまう。
この力の強さはディアナだな。このまま勘違いさせておけ、ということか。俺はその手をポンポンと叩いて了承を伝える。スッと手が俺の口元から離れていった。
「それじゃ、どういう感じにするか見極めるんで、そうですね……この棒をそっちのスペースで振って頂いていいですか?」
「わかりました」
鞘などに加工するため、鍛冶場に運び込んでいた木材のうち1つをアンネに渡す。剣にしては柄部分がやたらに太いが、長さはいいし、この森の木はつまっていて軽すぎないので具合を見るには不都合がない。
鍛冶場の天井はかなり高いので、アンネでも振り回すことが出来る。
「ハッ!」
アンネの気迫とともに、ブゥンと音を立てて木材が空を切る。もう少し遅いかと思ったが、全くそんなことはなく、今あの木材に当たれば骨の1本や2本は普通に折れるだろう。頭に当たったらどうなるかと言えば、ご想像の通りというやつである。
しばらく相手がいるかのように木材を振り回したあと、肩で息をしながらアンネが言った。
「ハァ……ハァ……どう……でしたか……?」
「ありがとうございます。大体の方向性は決まりましたよ」
両手剣なので重さが優先するのは当然としても、振る速度とのバランスをどうするか。そこが特注モデルとしてのカギになってくるだろう。
「……今日は雨が降ってるからダメだぞ」
「わ、分かってるよ!」
アンネを見て目をキラキラ輝かせていたヘレンに釘を刺してから、俺は準備に取りかかった。