「こりゃ凄いな」
真ん中が凹んで変形している板金を持ち上げた。加工前の板金でかなり柔らかいし、俺とディアナが持ってただけで固定も緩いので打ち抜かれる前に変形したみたいだが、板金を硬く作ってガッチリ固定していたら、フランジの形に打ち抜かれていたかも知れない。
「これが兜を被った頭とか、胸甲をつけた体に当たるわけですか?全力で?」
リケが目をぐるぐるさせながら、半ば振り絞るように声を出す。他の皆も目をまん丸くしている。
「そうなるな」
俺もかなり驚いてはいるが、自分で作ったものとヘレンの実力に対する信頼の分は若干冷静に受け答えできる。
とは言っても、作っておいて何だが人の体に当たった時、実際にどうなるかはあまり想像したくはない。飯がうまくなる情景でないのは間違いないだろう。
「聞くまでもないかも知れないが、どうだった?」
俺はヘレンに仕上がりを聞いてみた。返事は声ではなく、勢いよく作られた力こぶであった。
「欲を言えば、丈夫な革紐の輪っかが持ち手の端についてると良いかな。ちょっと長めのやつ」
「振り回すのに都合がいい?」
「おっ、わかってるじゃん。後は手首に通して落とさないようにだな」
「ああ、そりゃそうか」
前の世界で見た映画で手持ちのハンマーを振り回してるのがいたな。扱いは難しいだろうが、フレイルみたいに扱う方法もある……ということだろう。多分。
「またつけておくよ」
「あっ、急がなくていいぞ!!」
なぜか慌てたように付け足すヘレン。俺は苦笑しながら「分かったよ」と返しておく。雨の音を背後に、俺達は家に戻った。
自分たちの夕食の準備をする前にルーシーにご飯をあげて、小屋に戻す。すごい勢いで走っていったので、今日のところはそのままにしておいた。
雨の中を走っていったが、あのスピードだと「多少濡れた」程度で済んだのではなかろうか。
翌朝、相変わらず雨は降り続いているが、今日は昨日と比べて随分と小降りになっている。水は昨日汲んで来た分でギリギリ賄えなくはないが、小降りの間に補給しておこう。
明日が土砂降りだった時に汲みに行かなくても良くなる。
家を出ると、クルルが小屋から駆け寄ってきた。今日はクルルの水瓶も最初から出してある。それをクルルにくくりつけると、彼女は機嫌よく歩きだした。
水を汲み終わって、家に戻ってくる。あとは昨日の繰り返しではあるが、昨日よりもほんの僅かだけ濡れていないので、その分は楽……かと思ったらあんまりそんなこともなかった。
ただ、雨の量が少なかった分、多少気分はマシだ。土砂降りの中だともう歩くのも嫌になるからな。今日行っておいて正解、ということにしておこう。これで明日晴れたりしたらショックだが。
「今日からしばらくは納品するぶんを作るか」
「そうですね」
俺とリケで軽い打ち合わせをする。外に出られないから、気晴らしのピクニックなんかもしばらくはお預けだろうし、今のうちにカミロのところに納品するのを量産しておけば、納品する回数も減らせるし休みも増える。
ヘレンにもちょっと手伝ってもらえば、かなりの量産速度になる可能性もあるし。ならなくても最低限はできるだろう。この辺はのんびりいきたい。
そうして、炉だの火床だのに火を入れて準備をしていると、鍛冶場の扉が叩かれた。