フランジを合計で9つ作った。できあがったフランジは9つとも寸分の狂いもなく同じものだ。
「う~ん、この精度こそ、親方の本領のように思えます」
「そうか?他の鍛冶屋でも出来る人はいるんじゃないのか」
熟練の鍛冶屋なら、かなりのところまで精度が出せると思うけどな。そうでないと甲冑みたいに複雑な形状を組み合わせつつ、スムーズに可動させるのは不可能だろう。
「”ほぼ同じ”までなら実家の父親も出来ますけどね。この短時間で合わせることもなしに、作り慣れているわけでもないものを合わせてピッタリに作るのは無理ですよ」
9つのフランジを重ねながらリケが言う。
「親方なら戦場の簡易な鍛冶場でも、ちゃんとしたものを作れちゃうんじゃないですか?」
「かもな」
限界はあるだろうし、戦場の場所にもよるが魔力が少ない土地だと魔力を込められないので、その分性能はどうしても落ちる。ギリギリ高級モデルってとこだろうな。
リケがフランジをためつすがめつしている間に、持ち手とフランジをつける柄を作ることにする。
板金を火床に入れて熱する。加工できるところまで温度を上げたら、叩いて棒にしていく。柄になる部分はある程度長くないといけないが、あまり長すぎても扱いにくくなりそうなので、そこそこの長さに留めておく。ショートソードの扱いに慣れているヘレンなら短めのほうが良さそうだし。
ある程度の長さになったら、別の板金を熱して、今度は細めの棒を作る。針金ほどには細くないが、曲げるには加工を要する程度の太さだ。
こいつを柄の一端に巻きつけて持ち手とするわけである。
「リケ、すまんがちょっと手伝ってくれ」
「お安い御用です」
ガラスみたいに熱いうちにくっつけて引っ張ればいいなら、もう少しなんとかなるのだが、鋼でそれをするのは流石に難しい。炉の方で加熱することも考えたが、魔力まわりの話もあるしな……。
細めの棒を、リケがヤットコで掴んで固定している棒へ巻きつける。何周かはできるが、ある程度巻いたら冷めてくるので再度加熱してまた巻きつけを繰り返していく。
自分の拳の幅より少し長いくらい巻きつけたら、一旦そこで止めて、滑った時にすっぽ抜けないよう、持ち手の両端にぐるっと巻くように輪っかをつけたら、持ち手自体は完成だ。
あとはフランジの取り付けである。フランジと柄の両方を熱したら細い鎚で叩いて溶接みたいにしていく。これもフランジと柄の両方を支えつつ、鎚を振るわなければいけないので、リケに柄を支えてもらった。もしも量産するとしたら冶具を作って1人でもなんとか出来るようにしないといけないな。今のところその予定はないが。
金床の端の方を上手く使ってフランジ9枚を取り付けた。
「よし、これで完成かな」
「おお!」
リケが目を輝かせる。俺は出来上がったメイスを軽く振ってみた。そう作ったのだから当たり前ながら、頭のほうが少々重たい。もう少し持ち手側を重くしてバランスを取っても良かったかも知れない。
リケに見せると「ほほう……なるほど……」とかなんとか言いながら、あちこちの細工を見始めた。俺と同じように軽く振ったりしている。ドワーフにメイスは微妙にイメージが合わないな。斧や鎚が似合いすぎるのだとは思う。
それを横から見ていても、とりあえずは衝撃に耐えうるだけの強度を持っている……ように見える。実際には試して貰わないことには分からんが。
なので、ギリギリ日が沈む前だし鞘の加工なんかで残った木の端材と、板金を1枚用意してテラスに出て試すことにした。俺とリケ以外も今日の仕事は終いにして一緒に出てきている。
出来上がったメイスをヘレンに渡すと、ブンブンと音がしそうな勢いで振りはじめた。あまり筋肉とかはないように見えるのだが、随分と軽々振るもんだなぁ。これが経験の差ってやつか。
「丁度いい重さだな。ちょっと頭の方が重いけど、これなら全然いける」
「そうか」
俺は平静を装って返したが、内心ではホッと胸をなでおろす。サーミャにはバレたようでニヤニヤしていた。
俺とディアナで端材を持つ。
「くれぐれも俺たちには当てるなよ」
「当たり前だろ」
俺がニヤッと笑って言うとヘレンは口を尖らせる。そして、スッとメイスを構えて、思い切り横に振り抜いた。バキッと派手な音がして、木材が木っ端微塵に弾け飛ぶ。硬くて重い頭にヘレンの技量と力が合わさると、ここまで威力が出るものなのか……。
もう1つ驚いたのは、ほとんど俺には衝撃が伝わってこなかったことだ。ディアナの方を見ると驚いた顔をしているので、彼女も衝撃を感じなかったらしい。
「ば、板金も試してみるか」
「そ、そうね」
俺とディアナはおっかなびっくりのまま、板金を手で支えた。流石にこれは手に衝撃が伝わってくるだろうから、それなりの覚悟をして構えた。
「いくぞー」
気楽な感じでヘレンが宣言して、再びメイスが振り抜かれる。
ガキン!!とド派手な音がして、火花が散り、俺の手にはメイスそのもので殴られたかのような衝撃が伝わってきて、思わず手を離してしまう。
それはディアナも同じだったようで、つまり、俺とディアナはほぼ同時に手を離したことになる。それなりの重さの板金が決して狭くはないテラスの端まで飛んでいく。
俺は板金に駆け寄る。そこには、自己鍛造弾の途中みたいに真ん中がボコリと凹んだ板金があった。