家にたどり着いて、水瓶を慌てて家の中に入れる。サーミャとリケがすでに起きていて、タオル(リネンの柔らかく織った布だ)を渡してくれた。
そのタオルを持って、俺はクルルの待つ小屋へ急いだ。
小屋にいたクルルは、ちゃんと立ったままで待ってくれていた。体を拭いて貰えることと、濡れたまま座ってしまうとひどく汚れることを理解しているのかも知れない。
「よしよし、お利口さんだ」
「クルルル」
機嫌よく鳴き声を上げるクルルをタオルで拭いてやる。爬虫類のような体で毛皮ではないので、思ったよりは濡れていない。すぐに拭き終わった。
「今日は小屋で大人しくしていてくれな」
俺の言葉にクルルは一声鳴いて、(たぶん)了解を示す。小屋の床をチェックする。床と言っても地面を少し盛り上げただけだが、その盛り上げたのが有効だったのか、今のところ水が侵入してくる気配もない。
「よーし、じゃあ行くぞ」
「わん」
クルルはこの森にいる間はほとんど食べなくても平気だが、ルーシーは育ち盛りもあってか、好みもあるのか俺達と一緒に飯を食うので、連れて行く必要がある。
クルルを拭き終わったタオルではあるが、ルーシーの上から被せてダッシュする。小屋はちょっと離して建ててしまったが、もっとくっつけて建て直すか、屋根付きの通路を作っても良いかも知れない。通路の場合は高さをクルルがぶつからない程度まで屋根を上げなきゃいけないけれども。
家に飛び込んだ俺はルーシーをサーミャに預ける。抱っこされたルーシーはパタパタと尻尾を振ってご機嫌だ。あんまり愛想よくしすぎると
俺はリケが別に用意してくれたタオルをもって自室に引っ込み、服を脱いで体を拭いた。この服は今日は着られないな……。
あまり多いとは言えない着替え服を出して、そっちに着替えるとさっぱりした気分になった。
その後はいつもどおりに朝の準備を済ませる。いつもなら飯が出来るころにルーシーを家に入れるのだが、今日はそれよりもだいぶ早いので、皆がしている朝の準備やら洗濯やらを興味深そうに眺めている。
ディアナとヘレンがいつもより少し気合を入れて洗濯をしていた。可愛い応援があると気合も入ろうものではある。
少し早く朝飯の準備が終わったので、自分の洗濯物を干すのを手伝う。家族の分までは何かと差し障りがあるので出来ないが、自分のものは問題ない。
先日完成したばかりのテラスに洗濯物を干していく。
「さっそく役に立って良かったなぁ」
「そうですねぇ」
洗濯……と言うか基本的な家事の陣頭指揮はリケである。実家の生活から言っても1番経験が多いからな。
実はヘレンも器用に家事をこなす。聞いてみると、「家にいた時やってたし、前線でもちょっとした洗濯とかは合間を見てこまめにしてたからな」だそうである。
サーミャも器用ではないが基本的な事はできるし、リディも同様だ。ディアナはと言うと……よく目をそらしていたので、多くは語るまい。
それでも最初の頃はもたついたりもしていたが、今はそんなに時間がかかったりもしていない。元々覚えが早いのだ彼女は。
飯の後、普段ならルーシーを家の外に出すのだが、今日は雨だ。もうしばらくは家の方にいさせることにした。
「さて、それじゃあ今日の作業だが」
「もういつもどおりで良いんですかね」
「今回は特に依頼は受けてないからなぁ……」
いつもどおりに作業をすればいいだけの話ではあるが、3週間も納品へは行かないのだ。それなりに時間はある。
「何か新しいのを作るか」
俺がそう言うと、リケの表情がパァッと明るくなる。俺はそれを見て苦笑しつつ、鍛冶場への扉を開けた。